ちゃむ

Open App
8/20/2022, 12:24:54 PM

空模様を変えてみたいという人はこの国にどれくらいいるだろうか。

この国はいつも空に分厚い雲が覆っていて、お日様の顔を拝めるのは年に数回といったところだ。

私はそんなどんよりした曇り空を眺めため息をつく。

「はぁ…心がどんより~…こんな曇り空ばっかじゃ楽しい気持ちになれる日なんて来るのかなぁ…」

どこまでも続く曇り空をキッと睨みつけながら私はチーズバーガーをかじり、冷たいコーラをごくごくと喉を鳴らしながら流し込む。

昼間の公園に1人、テイクアウトしたチーズバーガーとコーラを手に曇り空に八つ当たりするようにがっつく私。

今は夏休み、高校3年の私は手が付かない受験
勉強をほっぽり出し気分転換に公園のベンチでランチをしている訳だ。

でも、曇り空で心はどんより。
通り過ぎる人達の表情も暗く見える。

だというのに、元気のいいセミの大合唱だけは凄まじく鼓膜に響いてうるさい。
あと、たまに道に落ちているのに元気いっぱいな音を鳴らすセミはなぜだか恐い。
ちっこい体のどこからそんな莫大なエネルギーがあるのやら。
1週間という短い余生は小さなセミにゴジラ並の迫力を与えてしまうのかな…なんて。
誇張しすぎた。でも、そんだけ恐い。

くだらない事でどんより気分を誤魔化していると。
沖縄かハワイの海みたいな綺麗な青色のシルクハットに黒いスーツの男が私に近付き声を掛けてきた。

「お嬢さん、よろしければ隣にお邪魔しても?」

新手のナンパだろうか。
あとスーツをきっちり着すぎていて暑苦しい…
曇り空で蒸し暑いというのに、この男にだけクールビズという概念は無いのだろうか。

「あ、はい…いいですよ?どうぞ〜どうぞ~」

どことなくダンディーで整ったチョビ髭を見て結構年上なんだろうなと思いつつ、男が座れるように尻をずらして席をつくる。

「ありがとうございます。」

男は隣にスッと座り、シルクハットを被り直しながら空を見上げる。
お気に入りのシルクハットなのだろうか。

「いい天気ですね。今日はいい日になりそうだ。お嬢さんもそう思いませんか?」
ニッコリ微笑みながらこちらを見て話しかけてくる。

「は、はぁ…そうですかね~?」

こんな曇り空なのに何を言ってるんだこの男は。
と思いつつも返事をする。

「私は曇り空でどんより気分です。空模様に気持ちが引っ張られているみたいな感じがするし、皆も表情暗いし…」

それを聞いて男は同情するような表情で優しく私に話し掛ける。

「実は空の模様替え屋をしてます。試しに今の空模様をお嬢さんの御要望に合わせて模様替えしてあげましょう。」

おかしな事を言う人だと思いつつも私は。

「じゃあ、雲一つない澄みわたる青空に模様替えしたいです。出来ますかね?」

言ってから少し不安になったのだが、男は優しく微笑みながら立ち上がる。

「わかりました。お任せ下さい。」

それ!と声を発しながら被っていたシルクハットを空めがけて投げる。

私は自分の目を疑った。シルクハットが空に溶け込むように消えたと思いきや雲一つ消えてなくなっているのである。
私の望んだ空模様がそこにあった。思わず笑顔がこぼれてしまっていることに少し遅れて気付く。

「うそ…本当に空模様が変わった!ふふ…」

男は満足気にその場を立ち去ろうとし踵を返す。

シルクハットが無くなって気付いた。
母子家庭で育ってきた私が小さい頃に写真で見たことのある面影。

ありがとう、とさよならを言う前に聞いておきたいことがあった


「あの!あなたの名前を聞いてもいいですか!」

模様替え屋の男はまるでその言葉を待っていたかのようにうっすら笑みを浮かべながら振り返り、こう答える

「私の名前は…」

名前を聞いて予感が確信に変わった。
あなたはやっぱり私の…!

その日から雲のないカラッとした晴れの日が多くなったという

まったく、空模様ってのは読めないなぁ
なんて私は上機嫌に空を見上げた。

8/18/2022, 8:47:24 PM

鏡よ、鏡よ、鏡さん
この世で1番美しいのは誰?

さて、鏡で何かを知ることが出来たなら、
あなたは何を知りたいだろうか。

今はスマホで何でも調べられるからそんな鏡は必要ない?
確かに今は昔と違って何でも調べればわかる。
とっても便利な時代です。

ならば、逆にスマホでなんでも分かってしまう今だからこそ色んな事を教えてくれる鏡があったなら。
あなたは鏡を使って何を知る事が出来るだろうか。

そう、スマホとか使って知る事の出来ない国家機密や世界の裏側なんかを見れてしまえるって思えたら怖いけど気になってくる。

身近なところであれば、好意を抱いている相手は誰が好きなのだろう。とか

些細なことであれば、夕飯は何か早く知りたい。だとか

「待てよ?鏡を使って女子の覗きなんかいいなぁ…」

教室がざわめく、今は授業中だ。
国語の女教師が呆れた顔でこちらを見ている。

ああ、やらかしてしまった。
思っていることを口にしてしまっていたらしい。
顔から火が出る、とはこのことか。
凄く恥ずかしくて顔が熱い。
なんだ、なんだ、自分のとこだけ昼間のエジプトかよ。暑すぎるにも程がある。

どうやら、水分補給の心配をしている暇もなく教師とクライスメイト達からの刺すような視線で頭の中が真っ白になる。
お前らは膨らんでトゲトゲしたフグか、もしくはえげつない量の針を身にまとったウニかよ。痛いよ。視線が。

「すいません!なんでもありません!強いて言うなら、思春期特有の独り言っていうか…」

呆れたように教師は溜息をつきつつも授業を再開し、まわりのクラスメイト達は黒板へと顔を向けた。

どっと疲れた。
自分で思春期とか言ってしまうのもどうかとも思うのだが、それよりも制服が汗でびっしょりである。
サウナに行かずともこんだけ発汗作用ばりばり働かせられるのなら整うまであと2回くらいはやってみてもいいかもしれない。
いや、そんな訳ない。懲り懲りだ。

廊下側の少し離れた席に座ってる幼なじみだけがこちらを見てニヤリと笑っている。
やめてくれ、お前も皆みたいに黒板もしくは先生のでかい胸元をかじりつくように見とけ!

なんだろう。今日は時間の流れが遅く感じる。
そういう日って月に何回かあるよな。

早く帰りてぇ…