母にあなたはみんなに愛される存在だよって言われたとき、自分を誇らしく思えた。
どんだけ傷をつけられても、私は愛される人間なんだと、嬉しかった。
私の体は大の字になってベットの奥の方に沈んでいく。重くだるーく沈んでいく。
落ちきったらどうなるんですかね
心の健康
あ、あの女の子。お母さんに汗拭いてもらってる。
窓を閉めていても外から蝉の声が聞こえてくる。
トントン
「はる、やっほーーー」
「おお、多希ちゃん。今日は何する?」
多希ちゃんとは幼稚園からの幼なじみで、今でも仲がいい。遺伝的なもので髪の毛がどんどん茶色になっていって、日に当たるとキラキラ輝いて見える。いつも髪の毛を下ろしているが、今日は暑いのかポニーテルをしている。
""
「今日も外は暑っついよ。外でも有効的なクーラーとかないかな」
「やっぱ暑そうだよね。さっき下にいたちっちゃい女の子も暑そうにしてた。お母さんに汗拭いてもらっててかわいかった」
「子供の方が熱中症になりやすいんでしょ。大変だよね、おかーさんも」
""
多希ちゃんはバックを漁り出した。中からは懐かしのワニワニパニック。
""
「えーーー、懐かしい。」
「今日はこれやろ」
""
ワニの口にある虫歯を当ててはいけないゲーム。子供の頃、デパートのおもちゃコーナーに置いてあったの、よくやってたな。
私たちは楽しくなって、子供の頃の思い出なんかも語り出した。とっても楽しい時間も過ごした。
""
「じゃ、そろそろ帰るね」
「もうそんな時間か、今日も楽しかった。またね」
「ん、またね」
""
次は何して遊ぶんだろ、トランプかなオセロかな。それともマリオカート?
私の心臓はワニワニパニックと多希ちゃんのせいで跳ね上がっていて、今日は簡単には眠れないかも。
トントン
<お薬の時間ですよー>
「はーい、今行きます」
私は動かない足をベットからおろし車椅子に乗った。
今日も素敵な日を過ごせた。明日は何しよう。
旦那が最近素っ気ない気がする。
結婚して10年、日常の会話も少なくなってきた。
些細なことが気になってしまうし、小言もよく言ってしまった。
気分悪くさせちゃったかな
そうだ、久しぶりにひまわり公園に2人で行こう。
昔よく行ったあの公園。
初めてのデートもあの公園。
付き合ったのもあの公園。
そして、私たちが結婚しようと決めた日も
あの公園。
昔よく被ってた思い出の帽子を両手に、るんるんと旦那に声をかけた。
一緒にひまわり公園にいこう。
忙しいからまたにしよう。
私は麦わら帽子を捨てた。
終点
<にゃーーーーーー>
聞き馴染みにのある声。
<にゃーーーーーー>
よりちゃん、よりちゃんはどこにいるの?
<にゃーーーーーー>
橋を渡った先には、辺り一帯暖かい草原が広がっていた。不思議な場所だ。私たちは道標もないのに、こっちに行きたいと直感で思ってしまっているみたい。周りのみんなも誰か探している。
<にゃっ>
あ、いた。
何年ぶりに触れただろう。ふわふわとした毛並みに、ピンと空に向かって伸びる尻尾。3角の耳に、少し湿った鼻。
私の顔にぐいっと顔を擦ってきた。
ずっと会いたかった。
よりちゃん、大好きだよ。