君の声がする
ピントが合わないカメラのような視界になった。
頬に違和感を覚えたので、そこを触ってみると自分の目からこぼれ落ちた涙であることがわかった。
あれ、俺泣いてるのか?
と、自分の状態に疑問符を浮かべながら驚いていると何処からか嗚咽が聞こえてきた。
その音をたどり声の主を見つけたと思ったら、それも自分であることに言葉も出ない。
こんなになるまでの出来事かなにかあったか?
と、またもこの自分の状態に疑問符をおいた。
気付けば辺りは暗く何も見えなくなっていた。
ここは何処だろうか。
暗いのは好きじゃないんだけど。
もうなんでも良いか。ここにいれば何も考えずに済むかもしれない。
あ、何だか眠くなってき、た
?、なんかうるさい、声が聞こえる。
誰だっけ、えーとえと、ああ、あいつか。
心配性のわりには鈍感で面白くて優しい俺の……
隠された手紙
ホームルームが終わり、クラスメイトの各々が放課後の遊びの話や部活の話をしていてザワザワしている。自分は特にこの後の用事もないし、家に帰って推し活でもしようと鞄に手を掛け椅子をひいたときだった。
「ねえ、癸さん。急にごめんね、少しいい?」
「えっああうん。いいよ、どうしたの。」
「話があるの。」
確かクラスメイトの鈴花さんだったっけ。あまり話したことないけど、よく見ると顔良いなと思いつつ手招きされたので素直についていくことにした。
暫く後を追うと鈴花さんが立ち止まった場所は屋上だった。こんなところで何の話かな。
鈴花さんが照れくさそうに話し始めた。
「私、ね。…好きな人がいて、その暁くん何だけど、私、手紙を書いたのでも直接渡せなくて、癸さん、暁くんと仲良いでしょう?こんなことをお願いするのもあれだけど、
暁くんにこの手紙渡してもらえないかな?」
暁とは幼馴染みでよく一緒に遊ぶ仲だ。
こういうのは自分で手渡しするのが一番良いとこの人も分かっているのだろう。これが最善策というわけか。
「……いいよ。私から渡しておくね。きっと暁も喜ぶよ。」
「ありがとう。よろしくね。」
それを言い終えると鈴花さんは走って校舎の中へと入っていった。
こういうことは別に珍しくはなかった。
暁は眉目秀麗で文武両道。所謂才色兼備というやつと小中ともに上がってきたのでこのような役回りは結構多かったのだ。
問題はそこではなく、この手紙をどう処分するかだ。
今までだって、上手く曖昧に誤魔化してきた。
今回も無論そうするつもりだが、実は自分も暁のことが好きだからか今更ながらこんなことをするのは可哀想だと罪悪感が芽生え始めてきたのだ。
やめるつもりは一切ないが。
取り敢えずこれは、持ち帰ろう。
バイバイ
疲れた。と言っても普通に生きている人よりかはなにもしていない。勉強も運動も他人が当たり前にしていることでさえ私は出来ない。個人差はあるというけれど、その言葉だけでは補いきれないと思う。学校にさえ生きていなかったのだし。普通の家庭に生まれて、不自由なく暮らせて来られた。けど、やはり疲れるものは疲れる。それはそうか、生きてるんだもんな。死んだらどうなるのかな。楽になれるのかな。死ぬってなんだろう。身体的にいえば大抵は心臓が停まることだとは思うけど。精神的にいえばもうとっくの昔に息絶えていたのかもしれない。
全てが不幸ではなかった。楽しいこともいくつかあった。
愉しいこともそうでないことも共存している世界があって、私は偶々そこに生まれて、疲れただけ。
それが人生。なにも私は不運じゃないし、頑張った。私なりに。終わりにしよう。この身体も見るに堪えない、みすぼらしい体たらく。
息が苦しくなってきた。なにも見えない。
終焉か
バイバイ私
バイバイ思い出
バイバイ
帽子かぶって
深く深く帽子をかぶる。足元しか見えないけど、今はそれで良い。今だけ、正面にいる人から視線を逸らせればそれで十分。あの人のことを考えるだけで身体が宙に浮かんでいる気分だ。全身が焼けるように熱い。
わたし今、どんな顔してるのかな。
やさしい嘘
優しい嘘に包まれて、なにも知らないまま枯れていきたい。