H₂O

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2/15/2023, 1:55:58 PM

10年後の私から届いた手紙


ポストに入っていたのは、いくつかのチラシと丁寧な文字で書かれた封筒だった。差出人の名前はなく、消印すらもないそれは誰かが直接入れたのか、と思って少しだけ怖くなる。
わざわざ手紙を入れるだなんて、家を知られているのをこちらにわからせようとしているみたいで、何だか嫌だった。
宛先にはここの住所と『10年前の私へ』という文字が書かれていた。自分のものによく似た、それでいて少し丁寧な大人びた字だった。
未来から手紙が来るなんて、どうやら10年後はそんなこともできるくらいには発展しているらしい。少しの期待に胸を膨らませて、封を開けようとして思いとどまる。
開けて読んでしまえば、きっとこの先10年間のネタバレになってしまうだろう。書かれている内容が何であれ、もし本当に10年後の自分から届いた手紙ならば、この手紙はこの10年間を記しているのだろう。
読めば、不安ばかりの未来の答えがわかる。読めば、回避できることはちゃんと回避できるのだろう。
でも、それでもこの手紙を読んでしまえば、未来を知らなかった頃には戻れない。知ってしまったからにはそれなりに自由が制限されて、責任なんていうものも持たなくちゃいけなくなる。
だから、封はそのままにして、机の引き出しの奥の方へと押しやった。
きっと未来の自分はこれを読んでほしかったに違いない。でなければ、わざわざ手紙なんて送ってこないだろう。何か後悔していることや知っておいてほしいことがあるのかもしれない。それでも、知ってしまった未来を生きる覚悟はまだないから。
あなたが歩んだ道をもう一度歩むことになったって構わない。だってそれが私たちの人生だから。
過去から現在へ、現在から未来へ。そうやって繋いできたものだから。
ネタバレはやめようね、そう小さく呟いて机の引き出しをそっと閉めた。

2/14/2023, 1:51:28 PM

バレンタイン


思い出ごと溶かして、冷やし固めた。
パキ、と音が鳴ったのはチョコか、心か。
甘いその味は舌に残って、べとつく。
ああ、確かに好きだったはずなのにな。
え? チョコの話だよ?

2/13/2023, 1:48:29 PM

待ってて


「待ってて」
そう言われて、素直に待っていた。また来るのを信じてずっと待っていたのに、何年経ってもその人はやって来なかった。
待っていただけで、何もしなかった私はこの長い時間をどれだけ無駄にしてきたんだろう。はやく諦めてしまえばよかったのに。そう考えたって、もう遅い。
だから、待つのはやめた。信じ続けて待つなんて、おとぎ話のお姫様じゃないんだから。運命なんて待ったって来ない。自分で掴みに行ってこそ、でしょ?
待ってて、なんて呪いに縛られて、動けなくなって。その呪いが解けるのは王子様のキスだなんて、ふざけないで。そんなことしなくたってこんな呪い解いてみせる。
信じるのはあの人のことじゃない、自分を信じればいいのよ。自分を信じれば、動かないなんて選択肢、取るわけないんだから。
自分を信じて動くのよ。運命を信じて待つありふれたお姫様なんかにならなくていい。
世界の歯車さえ、動かしてしまえばいいのよ。

2/12/2023, 1:53:37 PM

伝えたい


優しくて、あたたかいあなたが今日も心穏やかに過ごせますように。
嫌なことがあって、心が荒れる日でも。悲しいことがあって、心が泣いている日でも。
たとえ今日がそんな日でも、あなたが優しい人なのは知っているから、人の気持ちに寄り添える人だと知っているから、どれだけ傷ついてきて苦しい思いをしてきたか知っているから。
どうか、今日という日があなたにとって優しい日でありますように。
そんな今日が明日も訪れますように。

2/11/2023, 2:52:41 PM

この場所で


君といたこの場所で、笑って、泣いて、怒って、愛を知って。
君がいたこの場所で、まだ君の影を探していて、君との思い出で空っぽになった心を満たすんだ。

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