(お題:何もいらない)
自分が緑を好んで身につけるのは、勿論それが森の中なら目眩しになるからだ。
もし森が赤ければ赤を好んだろうし、青ければまた然りだろう。
だから正確には『好んで』いる訳では無い。
ただ必然として選んでいただけなのだから。
「ロビンは本当に緑が似合うね」
そうマスターに言われた時、一瞬なんの事か分からなくてフリーズしたのもその所為。
色の話が何処からでたのかは知らないが、そのセリフに真っ先にどっかの赤い弓兵が浮かんで消えた。
理由は特にない。
全く無い。
いやもう本当に、まっっっったく。
「……はぁ、まあ、長いこと着てますからねえ。馴染みもするでしょ」
「馴染むと似合うは違うよ」
金髪が映えて綺麗、だとか。
目の色とお揃いでオシャレ、だとか。
森の狩人って感じでカッコイイ、だとか。
まあよくそんなに褒める言葉がポンポン出てくるものだと感心する間もなく、言うだけ言ってマスターは別のサーヴァントに呼ばれて行ってしまった。
取り残されたオレはとりあえず自分の服を見下ろしてみるが、見慣れたこの色になんの感慨もない。
褒められるのは、……得意ではないが、嫌ではない。
苦手ではあるが、……取り立てて拒否する理由も、ない。
とはいえ、この色を、自分のトレードマークのように扱われるそれを、確かになにか色を選べと言われたら恐らく何も考えずに選ぶだろうことは想像できた。
だがそれはやっぱり好きだから、という理由でない。
選択肢が多いと迷うし、迷いが死に直結するという、い所謂、思考の癖のようなものだ。
つまりは消去法で、結局のところ自分にとって好きな色、とか似合う色、とかそんな理由は欠片も存在しないのだろう。
そうなると、ふと脳裏を過ぎるのは、意味のない「もしも」の想像。
もしも、森に生きて死ななかったら。
もしも、何かを好きだという理由だけで選べたら。
一体、自分は『何色』を選んでいたのだろう。
そんな、思考の戯言に意味はなく。
その戯言を表すものもない。
さすれば、それは何もないのと同じ。
見えない色は、存在しないのだ。
【ロビンフッドSS「存在しない色」】
(お題:無色の世界)
天に在す、我らの父よ。
そして、冥界に在す、我が飼い主よ。
我を許さず、我を愛さず、我が行いの全てを見逃さず。
いつか其れを罪だと、罰せられるべきものと、愚か者に相応しき枷だと、指をさして笑いたまえ。
ただ、最期には、最期にはどうか。
───嗚呼、そう望むことだけは許したまえ。
──────
AAA SS【叶わなくても構わない。】
(お題:神様へ)
別段、自分にとって彼女が特別だった訳ではない。
だけれど、どうしてだか彼女はいつも自分を特別にしてくれた。
彼女は思い出す限り非常に感情豊かで情の深い女性であったから、『それ』自体は珍しいことではなかったのだろう。
そしてそのことを証明するかのように、彼女の特別は沢山あって、自分はのうちの一人であると理解しながら、それでも自分が彼女の『特別の特別』であることも理解していた。
だから、己にとって彼女は特別ではないけれど、思い出深い存在だと言わざるを得ない。
「まあ、いつまで覚えていられるかはわかんねーケド」
高層ビルの上から見下ろす街は目が眩む程に眩く、そして果てしなく冥い。
メゾソプラノの響きを持つ呟きを聞く者は勿論その高さ故に誰もおらず、強い夜風に吹かれて消える。
「人の営みは変わらず、見上げる月も変わらず、……お前が何処にも居ないのも、変わらず、だ」
独り言を紡ぐ、細く華奢なシルエット。
その好き放題に跳ねた柔らかくしなやかな黒髪の短髪は、だがしかし冷たく強い風にそよとも動かない。
その身に纏う白い燕尾裾のドレスシャツも、やはり靡いてはいない。
そこにありながら、『それ』は『そこ』には居ない。
その存在はただの投影であり、誰かが『そこに在る』と認識しない限り、その次元には存在していないのだ。
非常にややこしい存在だと、自分でも思う。
だが自分は最初から『そう』であり、『そう』でしかないのだから 『そう』だと諦める他ないだろう。
認識さえして貰えば、認識した相手の認識した通りの存在になるのだから問題がある訳でもない。
見た目も声も温度も質感も全て自分のモノではないが、だからと言って自意識が揺らぐようなことも最早ないのだし、便利といえば便利でもある。
ただ少し、本当にほんの少しだけ───寂しいと感じることはあるけれど。
「あれから随分経ったのか、それともやっと追いついたのか、はたまたまだ先の話なのかも分からないが───」
誰も聞くことのない、だから誰も知ることのない、そしてそれ故存在しない言葉は何処にも行けずに溢れ落ちる。
「……それでも、俺は 多分お前を忘れないよ、燭(ともしび)の黒姫」
もう誰も、それこそ彼女の創造主さえもその存在を忘れたとしても。
こうして自分はいつまでも彼女を忘れないだろう。
例え記憶がなくなっても、かつて彼女が自分を『特別』扱いしてくれたように、自分も彼女を、そして彼女が生きた世界を、どうしたって無かったことには出来ないのだ。
それは呪いのようで、祈りのようで、ただの事実で、果てしない戯言、だから。
「あいしているよ」
その言葉が真実かどうかなんて、きっとどうでもいい。
誰よりも、何よりも。
ずっと、どうしようもなく。
「あいしている」
───これは何処にでもいて何処にも居ないケモノが唄うモノ。
決して特別では無い貴女に捧げ続ける、
全く特別ではない『あい』のウタ。
──────
AAA SS「其れは何時迄も限り無く」
(お題:誰よりも、ずっと)
───そう言われて、ロビンフッドは心底驚いた。
その言葉を想像していなかったからではない。
その言葉を、まるで当然のごとく思い描いていた自分に気付いたからだ。
目の前には差し出された手。
自分の荒れた手より幾分小さくて綺麗で、だがそれだけではないと知っている手。
希望を抱きしめ、絶望を抱え込み、それでも前に進むことを、先にある光を、星を、ひたすらに追い求めた手。
自分のように弱いサーヴァントを、旅の初めからずっと連れていく変わり者。
今先程、アーチャーとしての最高位である冠位戦まで付き合って、結局他のアーチャーサーヴァントを差し置いて自分をグランドなんていうものにまでしてしまった大馬鹿野郎。
だがその後に差し出された言葉も手も、まるで予め知っていたかのように───否、無意識のうちにずっと期待していたのだと自覚して、ロビンフッドは深緑のフードを深く被り、赤らんだ頬を隠した。
期待など、していなかった。
期待なんてするはずもなかった。
ここには沢山のサーヴァントがいて、ただリソースのなかった初期からの腐れ縁のようなものだと、いつか、戦力外として忘れ去られる存在なのだと、ばかり。
そう思う傍らで、心のどこかで、片隅で、自分さえ気付かないような砂粒より小さな欠片でも。
この言葉を、ずっと信じていた、なんて。
「……ホント、オタクには敵いませんわ」
差し出された手は引っ込められることなくずっとそこにある。
それは今だけではなく、きっと最初から『そこ』にあった。
ただ、見ないように、気付かないようにしていただけだ。
その手をとった時、いつか振り払われるのが恐ろしくて。
「でも、ま、……ここまでされちゃあ仕方ない」
でも、今は。
もう今は、違う。
この手を取るのに躊躇いはない。
いや、この先でいつか手が離れてもいいとさえ───思う。
だが、それは自分らしい諦めではなく、もっと自分らしい諦めの悪さから来るものだ。
「ええ、それこそ、地獄だろうとなんだろうとお供しますよ」
フードを深く被って表情を隠したまま、ロビンフッドはその手を取り、握り返す。
「……もう離れてやりませんからね、マスター」
──────
捕まったのか、捕まえたのか。
掴まったのか、掴まれたのか。
繋いだ手は、想像していたより温かかった。
──────
ロビンフッド夢「望む未来」
【お題:これからも、ずっと】