もしも未来を見られるなら、人の歴史が終わるところを見てみたいと思った。
それが何年後か何万年後かはわからないけれど、最後の一人がいなくなる日、あるいは人がいた痕跡を知るものが絶える日、そんな日を見てみたい。
それは天災のようなものかもしれないし、争いの果てかもしれないし、種としての限界を迎えた緩やかな滅びかもしれないし、進化の末に別の種になる日かもしれない。
そういうことを考えるとき、僕は不思議に穏やかに凪いだ心持になる。歴史の全ては失われ、初めから何もなかったかのように、観測するもののいない未分化の静かな暗闇だけがそこにある。そういうことを考えるとき、眠りに落ちる一瞬前に身体が溶けて深く深く重く沈み込んでいくときに似た安らぎを覚える。
(もしも未来をみれるなら)
知っていますか?この銀河にあるソメイヨシノは遺伝的にはすべて同一個体、クローンなんです。だからこんなにも、一斉に咲いて一斉に散るのですね。……ええ、同一個体ですから自ら繁殖することはなく、この花を必要とするヒトの手によってのみ増える。実に不自然な花なのです。旧人類は、地球に棲んでいた頃からソメイヨシノを好んで盛んに増やしていたそうですよ。オハナミも、元はそうした古代文明の一つで行われていた儀式だとか。一部の旧人類がなぜここまでソメイヨシノに執着し、銀河中の星々に植えてまわったのか、旧人類と違い植物に特別美しさや好ましさを覚える情動を備えていない我々には、理解し難いですね。しかし、美しさはわからなくとも、茫漠とひろがる宇宙に大してあまりに脆く短く紛れ込んだ異物のような生を、この花の咲いては散る姿に重ねて親しみを持つ気持ちなら、我々にもなんとなく想像できる気がしませんか。え、わからない? 君と私は同じロットで造られた個体なのに、これほど相違があることが、ときどき不思議ですよ。
(桜散る)
あの日望んだここではないどこかも、着いてみれば安住の地に成り果ててしまった。彼方は此方になってしまう。
今この場所に倦んだ瞬間にまた「ここではないどこか」が生まれた。
(ここではない、どこかで)