山羊野

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 もしも未来を見られるなら、人の歴史が終わるところを見てみたいと思った。
 それが何年後か何万年後かはわからないけれど、最後の一人がいなくなる日、あるいは人がいた痕跡を知るものが絶える日、そんな日を見てみたい。
 それは天災のようなものかもしれないし、争いの果てかもしれないし、種としての限界を迎えた緩やかな滅びかもしれないし、進化の末に別の種になる日かもしれない。
 そういうことを考えるとき、僕は不思議に穏やかに凪いだ心持になる。歴史の全ては失われ、初めから何もなかったかのように、観測するもののいない未分化の静かな暗闇だけがそこにある。そういうことを考えるとき、眠りに落ちる一瞬前に身体が溶けて深く深く重く沈み込んでいくときに似た安らぎを覚える。
 
(もしも未来をみれるなら)

4/19/2023, 4:25:25 PM