星空
天文学に興味を持てない理由ははっきりしている。
空に現れる不思議で綺麗なものたちは
何度も私の両親をさらっていく憎い奴らだ。
母親は、空を見るのが好きだった。
いつもと違う景色が見えると少女のように喜ぶ。
料理の途中にも関わらず
窓の外に虹を見つけては家を飛び出し
キャンプに行けば星空を指差し
酔っぱらいのようにフラフラとどこかに消える。
父親はそんな母が大好きで嬉しそうについていく。
吹きこぼれそうになった鍋の火を止めるのも
両親を探してぐずる弟をなだめるのも
もうたくさんだ。
天文学の範囲は狭いから諦めて
三学期巻き返そうと思う。
神様だけが知っている
今年も七夕の短冊に
たくさんの願いが書かれていく
痩せますように
太りますように
会社が大きくなりますように
会社を辞められますように
長生きできますように
早く死にたい
ちっぽけな人間たちの
小さなお願い事をつまみにして
神様はお酒でも飲んでいるかもしれない
かわいい奴らめと微笑んでくれたら
もうちょっと頑張れる気がする
この道の先に
この道の先に一体何があるというのか
褒美も誇りもなく
ただ飯を食うためだけに
山道を進んでいるのが馬鹿らしくて
よそ見をしていたら崖から落ちてしまった
谷底の道は平坦で山道より歩きやすいが
日が差し込まないので実りもなく退屈だ
山道に戻るよりもっと難しいけれど
私は原っぱに行きたいなあ
苦労するのが後か先か
きっとそれだけなんだ
日差し
窓際の席が好きだ。
教室は息苦しい。
すぐそばに外の世界があるとほっとする。
夏より冬の方がいい。
カーテンを開けていても暑すぎることがない。
昼寝をするのにぴったりの暖かさだ。
国語のおじいちゃん先生の話がつまらなくて
ふと窓の外を見ると
とてもラッキーなことに
校庭で体育の授業を受けているのは3・4組だった。
彼がサッカーをしているのが見える。
思わずこっそりガッツポーズをした。
今年の冬も焼けそうだ。
窓越しに見えるのは
ベランダを隠すように
大きな木が一本はえている
あの木さえなければ景色もいいのに
と彼は言ったが
私は木がある方がいい
大通りに面しているから目隠しになるし
天気のいい日に
葉っぱをキラキラさせているのを見ると
晴れていることがどれだけ幸せなことなのか
思い出させてくれる