『あいまいな空』
人間の心
「あじさい」
どんな花だっけな、忘れてしまった。
調べるのは面倒だ。
いつも聞いたら答えてくれる君は、もういない。
『好き嫌い』
どうしてだろう?
人は好き嫌いがある。
好きな人に優しくしたいし、嫌いな人には攻撃したくなる。
好きな食べ物はたくさん食べたいし、嫌いな食べ物は食べたくない。
好きだと楽しいし嫌いだと楽しくない。
嫌いだと不幸。不幸な自分はきらい。この世が嫌い。
好きだと幸せになれる。幸せな自分が好き。この世を好きなもので溢れさせるんだ!
『街』
−ウルトラマンオーブ外伝−
紅の街
・数百年前・
夕焼けが街を包む。
2人の男の影ビルの屋上に立っていた。
何かの口論をしていたのか、2人の影は掴み合いをしていた。次第に辺りは暗くなる。空にはまんまるの月が上がり、満天の星空。
夜が来た。
2人の男の影は無くなっていた。
−現在−
人々が慌ただしく行き交っている中、心地の良いメロディーと手拍子が聞こえる。そちらを見ると異彩を放つ男を取り囲んだ集団があった。その男は、黒いハット身につけ、黒いジャケットを羽織り、楽しそうにギターを弾きながら歌っていた。そこに1人のスーツを着た男が詰め寄った。「ガイ、何やってるんだ」ガイと呼ばれた青年はバツが悪そうに「ごめんごめん、少しやってたら楽しくなっちまった」ジャグラー、とギターを片付け、彼を取り巻いていた人々に手を振りながら歩きだす。ジャグラーと呼ばれた男が口を開く。「お前からのお誘いなんて珍しいな」声をかけたのはガイの方からだった。「お前さんと見ておきたい景色があるんだ」彼らは各々、旅をしていた。どれだけかわからない旅を何十年、何百年、何千年。目的があるのかないのか、その土地で出会う人たちと交流を深めては去り、を繰り返している。「ここのビルが取り壊されるみたいでな」ガイは指を指す。その先には都市再開発と書かれたポスターが貼ってあり、その付近を責任者らしき人物がと建設業者のスタッフが取り囲んでいる。その光景を見ると、どこか寂しげな気持ちが込み上げてくる。ジャグラーは目を細め、呟く。「形あるものはいずれなくなり、新たな命を授かる。まあ、風景に命があるとは言わないか」ガイはふっと笑い、答える「あるさ、たとえ無機物にもこの一瞬一瞬、どの瞬間にも命は宿る」そうこう言い合っているうちにビルの屋上に通じるエレベーターに辿り着いた。「どうぞ」エレベーターの中は1人の男がいた。進められるまま中に入ると、辺りは少しひんやりとした空気に変わった。男は振り返り、ふっ笑い、「不用心だな、ウルトラマンオーブ」男の姿が赤い光に包まれ姿が変わる。「私の名前はナックル星人、トワイト。貴様を倒させてもらう。」トワイト、と名乗ったナックル星人は手をぱちんと鳴らした。エレベーターの中にいた3人は消えてしまった。チン、エレベーターの扉が開く。少年が一番乗り!っと駆け出し、後ろから少年の両親らしき人物が誰もいないエレベーターに乗り込んだ。
少し肌寒さを感じた。ジャグラーは蛇心剣と呼ばれる剣を出現させ、トワイトに切り掛かる。その姿は、スーツを着た紳士姿の男から魔神の姿へと変貌していた。トワイトの身は真っ二つに切り裂かれ、上半身が地面に崩れ落ちた。ガイが帰り道を探そうと辺りを見回した時、トワイトの上半身がぶくぶくと膨れ上がり弾け飛んだ。ジャグラーはガイを抱え、その場を離れる。2人はため息をつき、見上げる。トワイトの体が巨大化しのだ。ガイは右手に輝く神秘のアイテム−オーブリング−を出現させ、光を纏った。「唸る拳が天地を裂く!宇宙拳法、ビッグバン!」ガイは巨人へ−ウルトラマンオーブ−と変身した。
トワイトとオーブが睨み合い、拳と拳をぶつけ合う。それが合図だった。両者激しい打ちあいをする。お互いの拳がお互いの顔面に打ち付けられる。ジャグラーは、がっかりしたように項垂れた。
オーブの拳がトワイトの腹部を捕らえた。トワイトは膝をついたが諦めない。再び立ち上がった。これが最後と言わんばかりに右手にエネルギーを集中させる。オーブもすかさずエネルギーを凝縮させ−レオゼロビックバン!強力な炎を持ったパンチはトワイトの拳を砕き、彼の体は背後にあった岩石へ吹き飛んだ。オーブは彼のもとへとゆっくりと歩き手を上げた。トワイトは敗北を認め、最後の攻撃を覚悟した。両手を上げ目を閉じる。だがいつまで経っても覚悟した衝撃は来なかった。恐る恐る目を広げると代わりに差し出された右手があった。「お疲れさん。いい勝負だった」オーブが言う。トワイトが戸惑っていると、オーブは右手をさらに突き出す。トワイトは困惑したようにどんどん突き出される右手を掴む。ジャグラーはつまらない映画を見るようにコーヒーを飲んでいた。
「今度会う時まで、しっかり鍛錬するんだぞ!」オーブガイの姿に戻り叫ぶ。トワイトは、押忍!と返し、それでは、と左手を鳴らした。辺りが白く光る。ガイとジャグラーは目を閉じる。元の空間に戻る。ぎゅうぎゅう圧迫感を感じ目を開ける。そこは、人で溢れたエレベーターの中だった。満員を知らせるブザーが鳴る。乗客はどこから現れたか知れぬ彼らに驚きを隠せない。波乱の真っ最中、チンと音が鳴る。屋上です。エレベーターの扉が開き。2人は押し出された。
騒動を冷ますかのように吹く風は気持ちよかった。
赤い光が差す方へ歩きだす。「見ろよジャグラー」フェンスで立ち止まる。フェンスから見下ろした街は全体が燃えるような夕焼けに赤く染められていた。「…美しい」ジャグラーが漏れるように口にした。
ガイは口を震わせ、「この景色をもう一度見れて良かった」
一筋の涙を流した。
2人は地上に下り、ジャグラーは人々の雑踏に紛れ込んだ。ガイはぐび、とラムネを飲み、ハーモニカを構えた。その時、「あっ!」振り向くとガイがギターを弾いていた時、目の前で手拍子をしていた少年が手を振っていた。
ガイはくるりと紅く燃える太陽に向き直り、溶けるように歩き出した。「あばよっ!」ガイが咥えたハーモニカから心地の良いメロディーが流れる。
・数百年前・
「綺麗だなガイ、まるで街が燃えて炎に包まれているようだ。この夕焼けのように俺が全部燃やし尽くしてやるよ。」
「そんなことはさせない。お前さんも分かっているはずだ。この瞬間に生きる生命の尊さを。」
2人はぶつかり合った。「いずれ、お前の中に闇が宿る」甲高い笑い声をあげ、ジャグラーは立ち去る。ガイは、いつかあの夕日をお前と見に来る…そう胸に誓った。
辺りは真っ暗な暗闇に染まり、星空の中に月が浮かび上がる。夜が来る。
満開の桜が咲き乱れている。そよそよと風が吹く。ふわ、と花びらが一枚、また一枚と舞いながら落ちていく。母に急かされ、胸に名札をつける。小学3年生と書かれた文字が輝きを帯びている。新学期。初めてのクラス変えに心が浮き立つのを隠せない。昔からの顔馴染みに新しい顔ぶれが揃った教室の中に僕はいた。ガラガラガラ、と教室のドアが開き、「おはようございます。これから自己紹介をしてもらいます。名前と将来の夢を教えてください。」廊下側の席から、新しい担任の先生と思われる女性は、それだけ言うと教卓の席に座った。僕の名前は、と順々に席を立ち上がり自己紹介が始まる。皆、淡々と名前と将来の夢を語る中で僕は頭が真っ白になっていた。何を言えばいいのか分からずに自分の番になった。感じる目線。顔が熱くなっていくのが分かった。震える声で名前を言った。将来の夢は、と口にしたところで言葉に詰まった。感じる視線に耐えられず俯いてしまった。仕方ないので、ないです。よろしくお願いします。といい、そそくさと席に座った。次の席の人が立ち上がりみんなの視線もそちらに向かったので、ようやく顔の熱が冷め始めた。この時の僕は自分のやりたいことなんて必要ないとさえ思っていた。
「ただいま。」僕は学校から帰るなり配布物や教科書で重たくなったリュックサックを放り投げ、流行りのテレビゲームをつけ、始めた。「手を洗いなさい。」唐突に聞こえた声が居間に響く。母は新しいクラスはどうだったの、勉強はと質問攻めのように聞いてくる。煩わしくなり、ゲームを中断し、外へ出た。
当てもなくふらふらと公園へ向かう。
「シュートっ!」公園には人だかりがあって、サッカーが行われていた。少し遠くから眺めていようと地面にしゃがんだ。おーい。声がした方を見ると同じクラスの翔が僕を呼んでいた。一緒にやろうと僕はチームに加えてもらった。サッカークラブに所属している翔はとてもサッカーが上手で人望が厚く、よくモテる。幼馴染ということもあり、彼に引け目を感じていた。試合は4-3で勝った。翔がいるこちらが優勢であったが、相手チームの剛士が立ちはだかった。剛士は野球のスポーツクラブに所属しているがスポーツ万能で何をやらせても上手い。試合に勝つのもギリギリだった。青空に高くそびえていた太陽も沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。皆、お腹が空いたと帰路に向かっている中、翔は1人もう少し残るとボールを蹴っていた。
翌日、登校すると翔と剛士が喧嘩をしていた。なんだなんだと生徒がわらわら集まり、廊下は人で溢れていた。2人にどうしたのと問いかける。翔が震えた声で話しだす。昨日のサッカーの後、1人残ってサッカーの練習をしていたが剛士がやってきた。1対1で勝負をしようと。2人は日が暮れた後もサッカーをしていたのだ。翔のドリブルを剛士が止め、そのままゴールに向かいシュート。ボールはゴールに吸い込まれた。剛士は翔の方を向きハッと笑い言った「お前の努力は無駄」と。翔は剛士の首元を掴み剛士も翔の首元を掴んだ。携帯の音が響く。翔のお母さんから電話が来たのだ。流石に帰らなければ、そう思い、帰宅の準備をする。剛士はその背中に侮辱した言葉を発し続けた。そして、今朝のこの時間、翔は剛士に掴み掛かった。翔の目には屈辱の涙が浮かんでいた。先生は、お互いに謝りあってその場を収めるようすすめ、2人は時間をかけながらも応じた。
僕はその光景が理解できなかった。喧嘩をしていたことではない。翔のサッカーに対する熱意に対してだ。一騒動が落ち着き、自分の席で考える。僕には他人より優れたいとか負けたくないとプライドを持ったものがない。改めて思い、自分の席から翔の方をみる。翔はサッカーの本を読んでいた。こんな時でもサッカーか。僕は思った。授業が終わり、帰宅していた。今日は家に着いたら何をしようか、などと考えていると、「ういー」背後から声がした。振り向いた先には翔がいた。今朝の翔とは違い、みんなから人気のあるいつもの翔だった。一緒に帰ることになり、今日の給食の美味しかったものなんかの他愛のない話をしたながら帰っていた。ふと、昨日の自己紹介の時を思い出した。そーいえば、翔の将来の夢ってなんだっけ?と聞いた。
翔はキラキラした目でまっすぐこちらを見た。「サッカー選手!」彼は饒舌に語りだす。昔、テレビで見たW杯が忘れられない。家族だけじゃない。日本が、世界が一つになってサッカーを応援する。その舞台に立ちたい。選手は誰よりも努力していて、誰よりもかっこいい。俺もそうなるんだ。だから誰にも負けるわけにはいかない。語る翔の目は誰よりも輝いていた。翔と別れた。恐らくこの後も公園でサッカーが行われるのだろう。
僕は翔の目を思い出し、胸に熱が帯びるのを感じた。やりたいことがあるっていいなあ。心から彼を羨んだ。
『やりたいこと』