もしおとぎ話の人魚姫の思いが
結ばれなかったら、人魚姫は泡になって消えていた。
いけないことだと分かっているのに
それが羨ましいと思った。
あの美しいハッピーエンドに、そんなことを思っちゃいけないって分かっていた。
それでも…その選択肢を持てたことが、自分で選べたことが、すごく羨ましかった。
泡になって、最初からいなかったみたいに消えられたら、どんなにいいか。
人魚姫のように、その選択肢があったなら、
『泡になりたい』
学校で、聞こえるような声で、陰口を言われた時
委員会の仕事を、全部押し付けられた時
怪我をしていて走れないのに、みんなに走って車に乗っておいて行かれた時
好きなものを馬鹿にされた時
表面上は、人の悪口を言えない、生きるのが下手くそな人間だったけど
心の中では、こんな奴らみんな死んでしまえ って思ってた。
黙れ、近づくな、干渉してくるな、関わろうとするな、陰口言うぐらいなら真正面から言え
嫌な気持ちになった時、頭の中で出てくる言葉や、想像することなんて
大抵は絶対に、外に出せないようなもの。
私が私の心を守るための、防衛本能で、一時的に楽になるための、逃避行なんだ。
【心だけ、逃避行】
久しぶりに、夢を見るほど眠れた。
私が目を開けた時、広がっていた景色は
見慣れた公園。
そして、楽しそうに駆ける3人の子供。
すぐに夢だと分かった。
だってそこには、どうやっても戻れない。
けれども、私がずっと焦がれていた景色だったから。
3人の子供は、色鬼をしたり
家で一緒にお絵かきしたり
春には花見をしたり
夏には水遊びをしたり
秋には栗拾いして
冬には雪合戦で大暴れ!
この夢がいつまで続くのかも、分からない…できることならずっと見ていたい
きっと2人は、あの日あの場所でした約束を覚えていない。
…………私だけは、あの真っ赤な夕日と約束を、覚えていよう。
【あの日の景色】
遠くへ行きたい
誰も私を知らない、誰も気にしない
遠い遠い、どこかへ
今の関係全部、断ち切って
過去も全部、なかったことにして
名前も変えて、今持ってるもの全部捨てて、
はるか遠くへ
一人で逃避行できたなら、どれほどよかったか。
【遠くへ行きたい】
どこまでも透明で、綺麗で、汚れを知らない水晶。
宝石言葉は「純粋」「無垢」「完全」
汚らわしくて、卑怯で、嘘つきの私とは全部真反対で、それがひどく、悲しかった。
触れることすらためらった。
私が触ったら、美しい宝石すら、汚してしまう気がして。
それは私の恐れから来る思い込みで、本当は触ったって私の汚れが移るわけじゃない。
分かっていても、触れられなかった、
それがなんとなく、幼い頃の思い出に似ていると思った。
触れたいと思っても、触れることはできないけれど。
思い出は綺麗なまましまっておくのが一番いい。
私は、今思い出すと胸が痛む、ひどく美しい幼き思い出が
透明な水晶によく似ていると思ったんだ。
【クリスタル】