「愛と平和」
その2つは似ているようだが、まるで違う。
愛があれば世界が平和になる訳ではないし、
平和な世であれば誰かを愛せる訳でもない。
それでもその2つが一様に謳われる理由は、
何方も容易には手に入らないからだろうか。
〈愛と平和〉
あなたは今、何をしていますか?
私は今、あなたを思い出していました。
『──私ね、死にたいの。』
…そう瞳に涙を溜めて言ったあなたは、
今もまだ生きているのでしょうか?
2人で駆け回った花畑。
木漏れ日の下で猫と一緒に眠った日。
ありがとう、というあなたの声。
また明日ね、と誓って別れた最後の日…
あなたと過ごした日々がある。
それは憶えているのに、とても大切なのに。
その時のあなたはどんな表情をしていたか、
あなたが好きだと言ってくれた私は
どんな私だったか。
…もう、思い出せなくなってしまった。
〈過ぎ去った日々〉
お金より大事なもの。
野に咲く花を集めた花束。
猫と一緒に昼寝する時間。
あなたを照らす木漏れ日。
ありがとう、という言葉。
また明日ね、と結ぶ約束。
ラムネ瓶のビー玉。
四葉のクローバー。
お祭りの光る腕輪。
洗いたてのお布団。
…どれだけ月日が経とうとも
鮮明に思い出せる、あなたの涙。
〈お金より大事なもの〉
…ある山の麓にある、古い神社。月夜の晩に
そこへ行けば、"白鬼"に会えるらしい─
「…最近、学校でこんな噂が流れてるんだ」
そう話すのは、私の隣に座る少女…ルカ。
彼女の幼い頃に怪我を治してやると懐かれて、私によく会いに来てくれるようなったのだ。
『へぇ、そうなのね。』
私が何気なく答えると、ルカは不安そうな表情でこちらを見る。
「…何も聞かないの?」
『どうして?』
首を傾げて言うと、彼女は暗い顔で俯く。
「どうしてって…私がその噂を流したかもしれないじゃん。」
『あら、そうなの?』
そう問うと、彼女は俯いたままフルフルと首を横に振った。
ルカは、私の前では絶対に嘘をつかない。
「…もう、会わない方がいいのかな。」
…ルカにとってはかなり辛い提案だろうに、
そう話す彼女は強く、優しい。
私は静かに微笑み、立ち上がる。
『…ルカ、顔を上げて。』
「…?」
『ほら…こんなにいい月夜なのに、独りぼっちで眺めるのは少し寂しいわ。』
私の言葉に、ルカは少し安心した様に微笑む。
「……うん、そうだね。」
…そんなルカを優しい瞳で見つめる彼女の
額には、二本のツノ。
彼女の純白の髪は風に揺れ、月の光を透かして淡く輝いていた。
〈月夜〉
「絆ってさ、切っても切れないものなんだって。」
『じゃあ、人間切断マジックにでも出演して来たら。』
「嫌だよ、痛そう。」
『でも絆は切れないんでしょ?』
「確かに私の名前は絆だけどさ、物理的に切ろうとするのはやめてよね。」
〈絆〉