『最悪』 210
もろびとこぞりて業を焼く
白いゼラニウムの花を
警告灯が朱色に染める
あなたの犠牲があって初めて
他人はあなたを求め出す
「止まれよ止まれ
止まりなさい」
『今さら何をおっしゃいますか』
揺れる花はチグリジア
気付いて欲しいとその身を捩る
雛鳥のように口を開けて
あなたは餌を待つばかり
『私を救って
助けて……お願い』
「今さら何をおっしゃいますか」
黒いカラスの羽が舞う
ノイズのように視界を覆う
無意味なものに気を取られ
観てないものが多すぎた
日が暮れた
気が触れた
湿った空気が
流れていった
もろびとこぞりて業を焼く
『止まれよ止まれ
止まりなさい』
『今さら何をおっしゃいますか』
『天国と地獄』
青空には沢山の魚が泳いでいて、近所のパン屋さんが毎朝、青空に向かって焼きたてのパンを放り投げるんです。
そのパンに群がった魚で雲ができて、パンを食べた魚はお腹が膨れ、感謝の涙を流します。
「ありがとう」
「ありがとう」
近所のパン屋さんは、とても凄い人なんです。
虹の滑り台で遊びたいと思いました。
星空の海を泳ぎたいと思いました。
沢山の人と友達になりたいと思いました。
小さい頃の友達はコオロギです。
捕まえては名前をつけました。
「太郎」
「次郎」
「花子」
「陽子」
最後はみんなが帰っていくのを見送りました。
私から逃げるように跳ねては、草むらへと消えていくんです。
寂しいけれど仕方がないんです。
友達だと思っているのは、自分だけなんですから。
夜空の月を観ました。
ドロリと輪郭が溶けていって、それは天の川になりました。
川を覗くと星達が泳いでいます。
月の周りで星達が感謝します。
「ありがとう」
「ありがとう」
これで月は寂しくありません。
昔から今まで、私はついに変われませんでした。
秘密主義で自己愛が強く、空気の読めない理想主義者です。
誰かに頼らなくても、何だかんだと生きていけます。
これまでだってそうでした。
人が楽しそうにしてるのを見るのが好きです。
……混ざろうとは思えません。
幸せそうに笑ってる人が大好きです。
……自分には無理でした。
たまに誰かと話したくなって、人里に下りてくる熊みたいに人と関わろうとします。
でも結局、その度に自分の爪や牙が誰かを傷付けてしまうんです。
何時だったか、私はあまり人とは関わらない方が良いんじゃないかと、白々しくそう思いました。
本当は昔から分かってたんです。
解ってたんですけどね。
何だか寂しくって……駄目ですね。
『風に身をまかせ』
線香の煙がたなびいては消えた
風に揺られては薄くなっていく
「記憶に残った、あなたの顔みたいだね」
線香の煙が立ち上っては消えた
風に揺られては散らばっていく
「記憶に残った、あなたの声みたいだね」
写真のあなたは変わらないから
幾年経っても変わらないから
毎日わたしは線香をあげる
あなたの為のおくりもの
線香の煙が私を巻いては抱きしめる
風に揺られては身をまかせていく
「忘れちゃった、あなたの温もりみたいだね」
『1つだけ』
古い時計の振り子が揺れる
重くて鈍い音を刻む
数字の並んだ時計盤には
ひしゃげた針が一つだけ
忘れ去られた庭園が荒ぶ
哀愁と寂寥の風が吹く
朽ちゆく老木の枝の先には
散らぬわくら葉が一つだけ
黄ばんだ手紙が床へ散らばり
微かな追憶を部屋にもたらす
思い出すのは一つだけ
過去の約束を一つだけ
その恵まれた一つによって
私の世界が満たされたんだ
『好きじゃないのに』
昏い感情を口から吐き出し
平気な顔して痴態をさらす
後から理由を探しては
勝手に自分で暗示をかける
『綺麗事では生きられない』
『それがこの世の常だから』
『何があっても仕方がない』
『世の中そんなに甘くはない』
嫌いな台詞を着飾って
尖った言葉でヒールを履かせる
貶し貶されワルツを踊れば
足を挫いて共倒れ
こんな世界が嫌だと叫べば
怠惰な奴だと罵られ
綺麗な世界が欲しいと願えば
馬鹿な奴だと嗤われる
好きでもないのにしがみつき
好きでもないのに生きている
それでは道理が通らないから
それが全てじゃないんでしょうね