ノーム

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7/2/2023, 8:55:29 PM

『日差し』


「鬱陶しいとは思わないか?」

半袖短パンのいかにも"夏"というような服装の男。
歳は十六。俺と同い年のそいつは足を組んで椅子に座り、スマホを片手に持ちながらそうぼやいた。

「……何がだよ」

一般的な感覚で、田舎に分類されるであろう地域の一軒家、さらにその中の一室で俺達は駄べっていた。
全開にしている窓からは強い日差しと、少しの質量を持った夏風が入り込む。

「この日差しがだよ」

自分から話始めたくせに、心底つまらなそうな顔をして、そんな事をのたまう。

「確かに陰気なお前には眩しいかもな」

俺も手に持った漫画に、意識の六割を向けながら適当に応える。

「本人を前にしてそんな事を言える、君の方がよっぽど陰気だろう?」

「まさか! 俺ほど清く正しく美しく生きてる奴なんてそうは居ないさ」

「どの口が言ってるんだか……」

少しの静寂が部屋をつつみ、漫画のページを捲る音だけが続く。
ふとそいつが椅子から立ち上がる気配を感じると、少し遅れて話し始めた。

「僕は眩しいのものが苦手なんだ……それは君だって知ってるだろう? 太陽なんてその最たるもので、僕は"アレ"が大っ嫌いだ。
だから決して自分から見ることは無いけれど、直接見なくても日差しという形で僕を苦しませてくる。
……本当に鬱陶しいものだよ」

やたら長く話し出したものだから、漫画から顔を上げてそいつを見てみれば、スマホをしまって退屈そうに窓から外を眺めていた。
仕方が無いので取り敢えず話を合わせてやる。

「その割には窓のカーテンも閉めないし、日差しに当たりながら外を眺めて黄昏てるじゃないか。
そもそも太陽があるのは常識で、それなら日差しがあるのも当然のことだろう? つべこべ言ったところで、どうしようもないんだから諦めろ。
……あとお前のその話し方、厨二病って言うらしいぞ。クラスの女子達が話してた」

俺の返答を聞いたそいつは、少し視線を上げて考える素振りをみせる。

「まぁ……確かに君の言う通り、苦手だからと言ったところでどうしようもないからね。少しでも慣れる為に、こうして日差しに当たりながら外を眺めているんだよ。
こう見えて僕は努力家なんだ。
しかし──」

そう言いながらこちらを振り向き、そいつは話を続ける。

「君の言った『常識』は本当に正しいだろうか?
朝が終われば夜が来て、夏が終われば冬が来る。
東から昇った太陽は、西の地平線へと沈んでいく。
これらはみんなの中で当たり前の常識とされている事象な訳だが……それがこれからも続く保証は何処にある?
僕達はどこまでいっても帰納法"もどき"しか使えないだろう? 何故なら未来は誰にも分からないからだ。
ならば明日に日差しが……ひいては太陽が無くなったとしても、別にそれはおかしな事ではない筈だ」

そうして気取った様に話を終えると、そいつは再び外の景色へと視線を移した。

……俺は思った。

「厨二病のくだりに触れない辺り……結構お前も気にしてたんだな」

そいつの肩がピクリと動く。

「別に……気にしてなんかいない」

「…………なんていうか……その」

気まずげに頬を掻き、一言。

「……スマン」

だんだんと日も暮れて、窓からの日差しも弱くなる中……遠くの方からは仲間を呼ぶカラスの鳴き声が響いた。

6/27/2023, 2:17:54 AM

『君と最後に会った日』


雨が降っていた
ただ立っていた

濡れた髪が垂れ落ちて
透けたシャツがへばりつく

ポツポツ ポツポツ
ザーザーザー

アスファルトを打つ雨粒が
その瞬間に弾け飛び

ドキドキ ドキドキ
ザーザーザー

動悸とズレた雨音が
いやに耳にこびりつく

何処の誰かは分からない
窺う顔もありはしない

けれど今日が最後だと
お互いよくよく理解した

6/19/2023, 8:47:20 AM

『落下』


冷めた目をして世界を見やる

(どちらが上で、どちらが下だ?)

今日も今日とて誰かが落ちて
夜の恐怖も、朝の恐怖も
どちらも解らぬ馬鹿どもが

落ちる無様を見下ろして
ケタケタ、ケタケタ嘲嗤い
チープな声音で説法たれる

これより下には落ちるまい
これより下には落ちたくないと
楽観主義者のアンビバレンス

拱手傍観の吊られた愚者は
たとえ自由の身になれど
読んで字のごとく何もしない

今日も今日とて夜が更け
視界が歪み、世界が歪み
零れた涙は天へと落ち行く

(どちらが上で、どちらが下だ?)

冷めた目をして世界を見やる


『落下傘奴のノスタルヂアと』

6/17/2023, 6:05:46 PM

『未来』 145


やい、お前!
なんだってそんな顔をするんだよ。

未来だぞ!?
今からするのは未来の話だ!

未来にはきっと空飛ぶクルマがあって、自動運転で誰でも簡単に世界中を旅できるんだ!
食料にもお金にも困ることが無くなって、これまで仕事だったものが趣味に置き換わっていく。
不治の病なんて言葉も忘れ去られて、不老長寿が当たり前の世界になってんだ!

……ワクワクするだろう?

ほら、お前も何か言ってみろよ!
例えばそうだな……幸せな家庭とかどうだ?
お前昔から結婚したがってたじゃないか。
将来どんな家族と暮らしたいんだ? ん?

……気が乗らないなら夢の話でも良い!
『叶えたい夢があるんだ』ってこの前言ってたろ?
どうだ? 夢が叶った未来の世界!
想像するだけで楽しくならないか?

……おい、何とか言ったらどうだ。

…………はぁ。

……なぁ、頼むよ。
ちゃんと顔を上げてくれよ。

もっと笑えよ。
もっと楽しめよ。
もっと語らえよ。
もっと上を向けよ。

……何時からだよ、お前が『未来』と聞いて下を向くようになっちまったのは。

6/15/2023, 2:14:13 PM

『好きな本』


「これ読んでっ!」


──────────


【勇者セイバー物語】 ~勇者、それってつまりブレイバー~


「俺は勇者セイバーだぜっ!」

ピカピカにキラキラしたイケてる伝説のソードを頭の上に持ってきて、セイバーはそうゆう。
つまり彼が勇者セイバーだという事を言っているので彼は伝説のソード"カイザーアルティメットグロテスク"に選ばれた勇者なのかもしれない。いやっそうだっ!

「これでやられろっ! 悪の怪物"ワルイーモン"よっ!」

セイバーがそんな事をゆったとたん、ピカピカにキラキラした伝説のソード"カイザーアルテマグロテスク"はさらにキラキラを増やし、周り一面を白くした。そして、勇者セイバーに雷が落雷するっ!

「キュッキュルルルゥゥウ……ッ!」

そのあまりのヤバさに魔獣"ワルイーモン"は怯えているのかも知れない、その強さ故に……。
次のしゅんかんっ! その身体から湯気みたいなのを出しながら勇者セイバーが凄い速さで踊って出ながら悪の怪物"ワルイーモン"に突撃するっ!

「ハァァンッ!」

気合いの声といっしょに勇者セイバーはピカピカの増えた"カイザーアルテメディックグロテスク"を瓦割りする。

「グガァァァアア……ッッ!」

これには流石の怪物"ワルイーモン"も納得の威力だったのだろう、そのまま寝転び永き永遠の眠りについた……その強さ故に……。

勇者セイバーは大声をあげる。

「俺の勝ちだぁー!」

それは山にひびきトドロキ、世界中に聞こえるくらい響いた。まるで怪物に捧げる鎮魂歌《レクリエーション》の様に……。


──────────


「どうっ? めっちゃ面白くない!?
これ私が書いたの〜!」

「…………」

「感想! ……感想はっ!
((o(。>ω<。)o))」

「これはぁ……なんというか……」

「ドキ(✱°⌂°✱)ドキ」

「……僕は好きだよ」

「゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・。」

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