『行かないで』
「煙草は外で吸って欲しい」
貴方は聴こえていないらしい
「酒を飲むのはやめて欲しい」
貴方は聴こえていないらしい
「ならば私と別れて欲しい」
貴方は聴こえていないらしい
不思議に思って貴方を見れば、耳だけ言葉が書かれていない
察した私は家を出る
貴方は耳なし芳一に、なるべくしてなったのだ
振り返れば芳一がついに言葉も出ないのか、こちらを見ながら口をパクパク
「さらば愛しの耳なし芳一、次は耳まで書きなさい」
家を出てから徒歩数分、カーブミラーに写った私が髪をかきあげ耳が出る
……何だ、お互い様ではないか
照れて染まった綺麗な耳に、貴方の言葉が書き足される
──行かないで
『どこまでも続く青い空』
あの子が飛んだ
「あの子は虐められていた」
あの子が飛んだ
「あの子は真面目で優しい子でした」
あの子が飛んだ
「あの子はあなたが好きでした」
聞いたら出る出る馬鹿語り、そんなチンケなワケが無い
お前があの子を救えなかった、あんたの為に生きれなかった
そこにあの子は居たはずなのに、あの子は探したはずなのに
そうしてあの子に捨てられた、全員揃って失望された
だからあの子は飛んだのだ
だからあの子は死んだのだ
だから───
遠ざかっていく空を見ながら想う
その青空は……どこまでも続いていた
『衣替え』
最近急に寒くなってきた、長袖の服を出そう。
半袖の服はしまい込む
最近急に暑くなってきた、半袖の服を出そう。
長袖の服はしまい込む
まだまだ暖かい日もあるし、少しだけは残しとこう。
半袖の服を少し出す
まだまだ冷える日もあるし、少しだけは残しとこう。
長袖の服を少し出す
私は何時でも私様、服の皆は振り回される
文句なんて言えないよ、だって──
……うーん、この服はもういらないな。
──ねぇ?
『声が枯れるまで』
子供の頃は良かった
「楽しかったなぁ」
周りの大人が優しかった
「嬉しかったなぁ」
責任なんて無かった
「気楽だったなぁ」
それが今はどうだろう
「…………あぁ」
周りの人は信用出来ず
「……そうだよなぁ」
責任だけが伸し掛る
「……もういいよなぁ」
──ガタンッ
「──!!……──!……、…………」
どうして声が出ないのか
「…………」
あぁ……枯れたのか