ひなまつり
今日の家には誰もいない。
日が沈み、真っ暗になったリビングで、桃をじゃくじゃくと丸かじりする。
今日は桃の節句だからだ。
私は女の子なのに、親はひな人形とかちらし寿司とか、そういうのを一切やってくれなかった。
だからこんな親不孝に育ったんだろうね、私って。
今年のひなまつりは家に私しかいないので、せっかくだから桃の節句を祝ってやろうという訳だ。
とは言っても、無論うちにひな人形などはない。料理も得意ではない。
ひなあられは友達と食べたことがあるが、あれはまずい。
というわけで、桃を食べることに決めた。
たった一つの希望
全員がたった一つの希望にすがって、見苦しいとは思わんかね。
欲望
「平和な日常をください」
少女は願った。程なくして実現した。
「素敵な人のよき伴侶になれますように」
成長した少女は願った。素敵な人に出逢った。
「どうかお金に困ることがありませんように」
更に願った。少女からは無限にお金が湧いて出てくるようになった。
純粋な欲望に塗れた少女は、慎ましくも強欲に願い続けた。
その結果、溢れ続ける慢性的な幸福に少女の感情は麻痺してしまった。
幸福を幸福と認識出来ぬまま、少女は幸福を求めて願い続ける。
列車に乗って
見慣れた景色が通り過ぎてゆく。
いつもなら何も思わないその景色に、私の心臓がヴェールに包まれたかのような錯覚を覚えた。
馴染みの土地を離れ、見知らぬ土地でひとり生きていく。
……もう、取り返しはつかないんだね。
いつのまにか知らない景色を映している窓。
共に映る私は、なんだか大人な顔をしている。
遠くの街へ
今日も夢を見たい。
だって夢は、私を毎日いろんな場所に連れていってくれるもの。
おなじみの場所から、知らない街まで。
幸せな夢から、怖くて辛い夢まで。
夢の中で、たくさんの街を旅してきた。
今日は何処に連れていってくれるの?
いつもと同じようで違う私の家?
ハチャメチャな日常が待ってる学校?
私しか知らない、遠くの街?