シーンと静まり返った
この部屋で
あなたがいない
この部屋で
想い出だけを抱きしめて
夜の河を渡ります
独りぼっちの淋しさに
涙がほろりと零れても
灯りを落して
目を閉じれば
眠りの向こうに
あなたの姿
朝よ
来ないで
この優しい静寂を
まだ消さないで
# 静寂に包まれた部屋 (291)
別れ際に
差し出された
あのひとの右手
少し長めの握手で
言葉にならない
サヨナラを
あのひとに
背を向けて歩き出す
わたしの足音が
凍てつくように
心にこだまして
我慢していた
別れの哀しみを
溢れさせる
# 別れ際に (290)
烈しくて
冷たくて
驚かせて
いきなり
呆気なく
終わった
通り雨は
あの人と
わたしの
恋物語に
似ていて
若かった
あの頃を
久びさに
思い出す
# 通り雨 (289)
雑木林の中
落ち葉を踏む足音が
シャリ ショリ シャリ
木漏れ日の中を
シャリ ショリ シャリ
吹き渡る風の中に
わたしを呼ぶ声がしたようで
思わず振り返ったけれど
あれは
秋が
行き過ぎる音
ドングリの実を
両手いっぱいに
拾い集め
青空に向けて
ぱぁっと
一斉に放り投げたら
林の静けさは
一瞬で
万雷の拍手に変り
秋の
カーテンコール
# 秋🍁 (288)
愛 優しさ 想い 情
喜び 怒り 悲しさ 苦しさ
寂しさ せつなさ 辛さ ………
形の無いものは
心模様だけでも沢山ある
形が無く
目に見えないからこそ
心を澄ませて感じ取りたいと
思っているけれど
強すぎた夏の日差しに
心は
カサカサに乾いて
錆び付き始めている
透明な月の光を浴びて
錆び落しをしなくては…
# 形の無いもの (287)