はらはらと舞い散る
桜の花と一緒に
こころの花びらを
一枚
春風に
そっと
運んでもらいましょう
お元気ですか と
あのひとの胸元まで
# 桜散る (109)
ひとつのものを
守るために
もうひとつを
切り捨てる
どれほど悲しく
どれほど辛く
どれほど惜しんでも
歩き出すためには
ひとつしか
持てなかった
守るべきものは
ひとつだけだった
わたしの心は
選んでしまった
✩ 選択 (108)
吸えもしないのに
あなたと同じ煙草を買って
今夜は ひとり
煙草に火をつける
火をつける瞬間に
少しだけ眉をひそめる
あなたの癖が
思い出されて
真似をする
指先についた
懐かしい匂いは
あなたの面影を
引き寄せて
わたしの名を呼ぶ
優しい声がよみがえる
灰皿の中で
うすい煙を立てながら
燃えていく煙草は
まるでわたしの
心みたい
形のままに残る
白い灰は
まるでわたしの
恋みたい
音もなく燃え尽きる
その
寂しさと 哀しさに
もう一本
また一本 と
火をつける…
✩ 煙草 (107)
忘れるという字は
亡くす心と書きます
あなたへの
わたしの心を
亡くしましょう
あなたのことを
忘れてしまうために
でも
どうやって
亡くしたら…
✩ 忘れるという字 (106)
あのひとが
わたしの月になったのは
いつからだろう…
あのひとが放つ光は
眩しすぎず
暗すぎず
いつも優しさに満ちて
わたしを照らすけれど
わたしの想いは
あのひとには
届かない
# 届かぬ想い (105)