「もう一年もこんなことやってるんだよなあ」
垂らした釣り糸は動かない。水面は同じ波紋を繰り返し描く。
昨日も今日も明日も、同じような日々を繰り返す僕らと似ている。
【お題:1年後】
子供の頃は、何が好きだっただろう。
何に夢中になっていだろう。
思い出すにはあまりにも遠い過去になってしまった。
「いらっしゃいませ」
その青い花を見るまでは。
「気になります?」
「いえ」
「ずっと見てましたよね?」
若い女性店員にそう言われ、気まずさに目を逸らす。
娘と同じ歳くらいだろうか。
「この花、名前は何ですか」
小学校への通学路に咲いていたのと同じだ。小さな青い花をたくさん咲かせる。
初夏の日差し。クラスに馴染めなかった小学五年。
「アガパンサスですよ」
【お題:子供の頃は】
私ひとり落ちたって誰も構いやしない。
【お題:落下】
高校からの帰り道に、T字路がある。おれは右、あいつは左に曲がる。
しょうもない話をしながら
【お題:岐路】
最悪だ。大雨で職場へ向かう電車が遅れ、ようやく来た電車は激混みで息もできず、ほうほうのていで会社にたどり着けば、昨日メールで送信したはずの資料がなぜか送れていなくて、その資料を会議で使うはずだった上司から怒られ、よく確認してみれば宛先のメールアドレスが一文字間違えていて、あわてて上司に報告しようとしたら商談中で連絡がつかない。とにかく誤送信先にお詫びとメールを削除してほしいと連絡を入れて、ここでようやく昼休みだ。
家で作ってきたおにぎりを取り出してみれば、満員電車で押しつぶされて平べったくなって、ささやかな楽しみとしておにぎりに入れていた唐揚げも崩れてしまっていた。
「大丈夫?」
隣の席の先輩が、見かねた様子で話しかけてきて、
「あっ、こういう時って『大丈夫?』って聞いちゃいけないんだよね。『大丈夫です』しか言えなくなっちゃうもんね。えーとなんだ。『大丈夫じゃないよね?』」
返答に困った私は、「はあ」としか言えない。
「まあ、誤送信先が社内で良かったよ。おれなんか、社外宛でやらかしたことある」
「本当ですか」
「いっときは有名人だったよ」
先輩はカバンをごそごそ探って、小さな箱を私の机に置いた。
「キョロちゃん?」
おなじみチョコボールのその箱は、フタがちょっとだけ開いていて。
「あっ」
銀のエンゼルがこちらに微笑みかけている。
「やるよ。おれいっぱい持ってるから」
【お題:最悪】