Morita

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5/12/2024, 5:24:48 AM

めちゃめちゃ足が痛い。歩き疲れた。夜通し歩いていた。

なんでそんなことをしたのか。
終電を逃したからか。否。
誰かを探していたのか。否。
忘れたい恋があったのか。否。

理由はもっと簡単だ。歩きたくなった。それだけだ。なのに人には理解してもらえない。人はどこまで歩くことができるのか。試したくなったのだ。

これがマラソン大会なら沿道で声援もあったかもしれないが、勝手に一人で歩き出したものだから、すれ違う人に変な目で見られるのが関の山。

空には星が煌めく。行き交う車のヘッドライトが俺を照らしては通り過ぎていく。

ごめん、今日帰れないわ。

LINEでメッセージを送った時、家族の反応は冷たかった。馬鹿じゃないの。なんでそんなことを。何かあっても知らないからね。

海沿いの道を行く。左手側には街灯や民家の明かり、飲み屋の看板が光っている。右側は海。吸い込まれそうなほど真っ暗だ。光と闇。生と死。俺はその瀬戸際をただ歩き続ける。

自分を愛したかったのかもしれない。尋常でない距離を夜通し歩き通すことができたら、なんの取り柄もない自分を認められる気がして。

牧場ミルキーソフトクリーム1.5倍増量。

突然目の前に現れたのぼり旗。知らない街に佇む見慣れたコンビニ。

ここのソフトクリーム、美味しいんだよな。知ってる。1.5倍増量。駄目だ。ここで立ち止まったら、疲れ果てて二度と動けなくなる気がする。せっかくここまで来たのに。

目をつぶれ。俺は何も見ていない。牧場ミルキーソフトクリームなんてものはない。ストイックであれ。さすれば報われる。

「おーい」

呑気な声。振り向くと、ソフトクリームを食べている姉貴。
コンビニの駐車場には見慣れた車が停まっていて。

姉貴が車の中に向かって、

「あいついたよ」

運転席の窓が開き、親父が身を乗り出してこちらを向いた。不機嫌な顔で、乗れ、と手で合図している。

あともうちょっと歩いていたかったのに。そんな思いもあったが、気付けば車の方へ吸い寄せられていて。

お腹がぐるると鳴った。そういえば、お腹が空いていたっけ。

「アイス食べて良い?」
「勝手にしろ、馬鹿」


【お題:愛を叫ぶ。】

5/6/2024, 9:21:06 AM

君と出逢って初めて、僕は自分が狼人間であると気付いたのだ。



【お題:君と出逢って】

5/5/2024, 8:16:34 AM

耳を澄ますと、スマホの中からすすり泣く声が聞こえてきた。

「助けてください、出られないんです」

その声はスマホのスピーカーのあたりから聞こえてきて、耳に当てるとまるでスマホで通話しているみたいな格好になる。

「なんでそんなところに? っていうかあんた誰?」

スマホの中にいるこいつを救出するには、スマホを分解しないといけない。なんで身も知らないやつのために、そこまでしないといけないのだ。

スマホの中の小人は、少し口ごもってから、

「あなたです」

「は? 何言って」

「私は、未来のあなたです。寝ても覚めてもスマホばかりいじっていたら、車にはねられて体を失った時、天国にも地獄にも行けず、スマホの中に閉じ込められてしまったんです。だから、お願い。私をここから……」

けたたましいクラクション。顔を上げれば、巨大なトラックが目の前に迫ってきていた。

【お題:耳を澄ますと】

5/3/2024, 4:58:58 AM

「地獄カレー10辛、ブートジョロキアマシマシで」
「……お客さん、それは」
「できませんか?」
「食べきれない場合、食べ残し料金を頂きますが」
「知ってます」

優しくしないでください。



【お題:優しくしないで】

5/1/2024, 11:31:23 PM

選べない。
軽井沢のお土産屋で私は頭を抱えた。

壁一面に並ぶ色とりどりのジャム。手前には試食用の瓶。常時100種類取り揃えているらしい。さすがは果物王国長野。

王道のジャムから変わり種まで。リンゴにイチゴ、ハスカップにルバーブにスットコドッコイにホゲホゲナンタラ。

初めはわいわいはしゃいでいたけど、試食しすぎて何が何だか分からなくなってしまった。普通にお茶が飲みたい。
カラフルで美しく見えたそれらが、今やうるさく見えてきた。

「無理しなくていいよ」
「でもさあ」

せっかく軽井沢に来たんだし、ジャムは買いたいじゃん。

人は選択肢がありすぎると、逆になにも選べなくなる性質があるらしい。この間何かの本で読んだ。なんだっけ。そうだ。本のタイトルは「適職の探し方」。



【お題:カラフル】

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