めちゃめちゃ足が痛い。歩き疲れた。夜通し歩いていた。
なんでそんなことをしたのか。
終電を逃したからか。否。
誰かを探していたのか。否。
忘れたい恋があったのか。否。
理由はもっと簡単だ。歩きたくなった。それだけだ。なのに人には理解してもらえない。人はどこまで歩くことができるのか。試したくなったのだ。
これがマラソン大会なら沿道で声援もあったかもしれないが、勝手に一人で歩き出したものだから、すれ違う人に変な目で見られるのが関の山。
空には星が煌めく。行き交う車のヘッドライトが俺を照らしては通り過ぎていく。
ごめん、今日帰れないわ。
LINEでメッセージを送った時、家族の反応は冷たかった。馬鹿じゃないの。なんでそんなことを。何かあっても知らないからね。
海沿いの道を行く。左手側には街灯や民家の明かり、飲み屋の看板が光っている。右側は海。吸い込まれそうなほど真っ暗だ。光と闇。生と死。俺はその瀬戸際をただ歩き続ける。
自分を愛したかったのかもしれない。尋常でない距離を夜通し歩き通すことができたら、なんの取り柄もない自分を認められる気がして。
牧場ミルキーソフトクリーム1.5倍増量。
突然目の前に現れたのぼり旗。知らない街に佇む見慣れたコンビニ。
ここのソフトクリーム、美味しいんだよな。知ってる。1.5倍増量。駄目だ。ここで立ち止まったら、疲れ果てて二度と動けなくなる気がする。せっかくここまで来たのに。
目をつぶれ。俺は何も見ていない。牧場ミルキーソフトクリームなんてものはない。ストイックであれ。さすれば報われる。
「おーい」
呑気な声。振り向くと、ソフトクリームを食べている姉貴。
コンビニの駐車場には見慣れた車が停まっていて。
姉貴が車の中に向かって、
「あいついたよ」
運転席の窓が開き、親父が身を乗り出してこちらを向いた。不機嫌な顔で、乗れ、と手で合図している。
あともうちょっと歩いていたかったのに。そんな思いもあったが、気付けば車の方へ吸い寄せられていて。
お腹がぐるると鳴った。そういえば、お腹が空いていたっけ。
「アイス食べて良い?」
「勝手にしろ、馬鹿」
【お題:愛を叫ぶ。】
君と出逢って初めて、僕は自分が狼人間であると気付いたのだ。
【お題:君と出逢って】
耳を澄ますと、スマホの中からすすり泣く声が聞こえてきた。
「助けてください、出られないんです」
その声はスマホのスピーカーのあたりから聞こえてきて、耳に当てるとまるでスマホで通話しているみたいな格好になる。
「なんでそんなところに? っていうかあんた誰?」
スマホの中にいるこいつを救出するには、スマホを分解しないといけない。なんで身も知らないやつのために、そこまでしないといけないのだ。
スマホの中の小人は、少し口ごもってから、
「あなたです」
「は? 何言って」
「私は、未来のあなたです。寝ても覚めてもスマホばかりいじっていたら、車にはねられて体を失った時、天国にも地獄にも行けず、スマホの中に閉じ込められてしまったんです。だから、お願い。私をここから……」
けたたましいクラクション。顔を上げれば、巨大なトラックが目の前に迫ってきていた。
【お題:耳を澄ますと】
「地獄カレー10辛、ブートジョロキアマシマシで」
「……お客さん、それは」
「できませんか?」
「食べきれない場合、食べ残し料金を頂きますが」
「知ってます」
優しくしないでください。
【お題:優しくしないで】
選べない。
軽井沢のお土産屋で私は頭を抱えた。
壁一面に並ぶ色とりどりのジャム。手前には試食用の瓶。常時100種類取り揃えているらしい。さすがは果物王国長野。
王道のジャムから変わり種まで。リンゴにイチゴ、ハスカップにルバーブにスットコドッコイにホゲホゲナンタラ。
初めはわいわいはしゃいでいたけど、試食しすぎて何が何だか分からなくなってしまった。普通にお茶が飲みたい。
カラフルで美しく見えたそれらが、今やうるさく見えてきた。
「無理しなくていいよ」
「でもさあ」
せっかく軽井沢に来たんだし、ジャムは買いたいじゃん。
人は選択肢がありすぎると、逆になにも選べなくなる性質があるらしい。この間何かの本で読んだ。なんだっけ。そうだ。本のタイトルは「適職の探し方」。
【お題:カラフル】