「たまには悪くないでしょ」
そう言って誤魔化してみる。
気楽に、なんでもないように振る舞ってみる。
きっと君のことだからバレてるんだろうな。
それでも、不器用な人同士、歩み寄るにはそれしかなかった。
「たまにはこうしてみるのもいいものだよ」
空気を震わせた音は誰に向けたものなんだか。
『たまには』
言葉だけでは伝えきれない感情はどうするべきだろうか。
行動で示してみようとも思った。
手を繋ぐ。
ーー違う。
抱きしめる。
ーー違う。
キスをする。
ーー違う。
一晩中歩いて、考えたみたけれど答えは見つからず。
夜の端が白み始め、朝が僕を出迎える。
あと数時間で君と顔を合わせるというのに、大切なものは見つからなかった。
今日も、どこか物足りない言葉を君に届けに行く。
『大好きな君に』
ふと、宛てもなく歩きたくなった。
歩き慣れた街を気の向くままに足を運ぶ。
彷徨うように漂えば、見知らぬ場所へ出てしまった。
ーー知らない道。
ーー知らない家。
ーー知らない人。
右も左も知らないものばかり。
ここは一体どこだろうか。
思案するように顔を上げれば見上げた先には
ーー知っている空。
どこか遠い、何も知らない場所で知っているもの一つ。
たったそれだけでどこまでも歩いていける気がした。
『遠くの街へ』
イヤホンで耳を塞いだ。
喧騒を遠ざけ、自分だけの世界に逃げ込んだ。
ここは自分だけの世界。
誰にも邪魔されない。
独りの、独りだけの世界。
そこに響く歌声だけが、自分を理解してくれている気がした。
『誰かのための自分じゃない。自分の為の世界じゃない』
聞き飽きたはずの自分の為の綺麗事にまた夢を見て、現実で目を覚ます。
生きようとして現実を見て、死にたくなって眠りにつく。
夢を見て、夢を諦めて、夢に逃げ込んだ。
今日もまた、自分だけの世界に逃げ込んだ。
イヤホンで耳を塞ぎ瞼を落とす。
ーーただいま、世界。
『現実逃避』
同じ星空を見てるだろうか。
ちゃんと呼吸できてるだろうか。
息苦しくないだろうか。
歩くことに疲れてはいないだろうか。
孤独感に苛まれていないだろうか。
大丈夫だよ、一人じゃない。
ここに僕がいる。
『君は今』