君は会うたび姿が変わる。
服装も、身長も、年齢も、声も、性別も。
いつも別れ際に聞く。本当の君はこの姿なのか、と。
いつも君はこう答える。今見てるのが自分の姿だ、と。
⸺私は、”本当”の君を知りたいんだけどな…。
◆◇◆◇◆
「奏叶様、いつも弊社の人材派遣サービスをご利用いただき、ありがとうございます」
「ん〜、いいっていいって。あの面白い玩具相手なら、何時でも新人さんの練習に使ってよ」
「しかし奏叶様、あの方は親友ではないのですか?」
「うん。だってアイツ、別人をボクだと認識する馬鹿だもん。良くて長く遊べるタイプの玩具だよw」
「そうですか……⸺知らなかったなぁ。でも、君も知らなかったでしょ?私の実家と、私の趣味変装、特技演技」
「………え?」
【だって、気になる相手は徹底的に調べろって、お婆ちゃんが言ってたから…】
北東の洞窟に、火竜の番いが住み始めた。しかも、子育てを始めるようで、二匹の竜が代わる代わる食事を摂りに行ったり、巣の材料に使う用であろう大木を運んだりしている。
北東の洞窟に住み始めた二匹の竜の情報は、国中をかけ巡った。多くの国民たちは、神獣と敬う、魔法の如き力を用いて火を扱う火竜が国に住み始めたことに歓喜し、毎夜北東に向かって祈りを捧げてから就寝している。
しかし、一部の上流階級の人間たちの反応は違った。
その理由は、北東の洞窟がこの国唯一の、氷の採取場だったからだ。
ある騎士は、酒に入れる氷が無くなったことに苛立ち、訓練でも刃入りの剣を使うようになった。
ある公爵夫人は、氷を使った良い美容法があったのに…と、派閥の夫人たちに愚痴をした。
ある王子は、大好物の氷菓が食べられなくなったことで、元々の我儘放題が、更に悪化した。
⸺気づいていない者もいるかもしれないが、この話の世界では、人間は魔法が使えない。まぁ、特に必要性の無い情報だがな。さて、ここで質問だ。”この国”は、幸せな国だと言える?………まぁ、大概の回答は概ね想定通りだろうがね。
【氷の使い道って意外に思いつかない…】
「……辞めたいなぁ、この仕事」
いやだってね、”アイ”って名前の液体をガラス瓶に注ぐ仕事ダヨ?なんかバカが速攻で考えたみたいなクソな仕事なんだけど、マジで辞めたい。
『無哀 届歌(むあい とどか)、本日のノルマまで37本です。いつも通りの進捗ですね、無駄口を叩く暇があったら手を動かしなさい』
そして辞めたい理由の一番はこのクソ上司だ。会社全体がこんなシステムだから、この会社辞めたい。
『C班への業務連絡です。本日のC班のノルマ達成者は1人です。まだまだですねぇ……では、本日のC班の終業時間は3時にしましょうか』
………えっ?!
『冗談です。17時にノルマが終わっていれば、本日は帰宅してもらって大丈夫ですよ』
⸺珍しっ!?!?!?
◆◇◆◇◆
「今日のカレーは特別ウマイな。隠し味?」
「あら、気付いたのね。そうなの、”アイ”を注いだの♪」
「へぇ…ありがと」
「お礼はいらないよ〜!」
【需要はあるんです、えぇ】
右を向くと、白。
左を向くと、黒。
正面を向くと、黒と白の真っ直ぐな境界線⸺と、このほぼ何もない空間に似つかわしくない、木製の看板。
『 光と闇
君はどちらを選択する? 』
⸺転生オプションを選べたから、ここに来たんだが…これ人によって解釈変わると思うのだが???
「けどま、分かりきったことだ。オレはどっちつかずの中立で平々凡々が良いからな……今こうやって立っている場所、オレはこの選択をする」
突然、上から看板が降ってきて、新しいメッセージが届く。
⸺えっ、いや…上からって、運悪かったら突き刺さるんじゃないか……?
『 なるほど
なら君は、光と闇
相反する二つの力を
扱うといいさ 』
⸺オレは転生したあと、この出来事を深く後悔するのだが、それはまた別の話である。
【狭間の記憶】
≫見捨てられた家のポストを開けてみた。
どうやら中には、一通だけ封筒が入っ
ている。
≫どうやら一度開けてからテープで中を
閉じたようだ。
≫テープを剥がして中を見てみますか?
▷はい いいえ
≫中に入っていたのは、手紙が数枚と一
枚の写真、そして銀色の絵の具で色付
けされた木彫りの板だった。
≫何度も消した跡がある
手紙を読んでみますか?
▷はい いいえ
「■■へ!
オレたちはどんなにとおくはなれても
えいえんにナカマだ!
そのことわすれてなくのはやめろよ!
まきより」
≫まだ二枚手紙が残っている。
柑橘の匂いがする読んでみますか?
▷はい いいえ
「ル■へ
ボクらはいつもつながっている。
だからルカは、ぜったいにひとりぼっ
ちじゃないよ。
マキもハナねぇも、もちろんボクも
■カのことをしんぱいしてる。
だから泣かないでほしいんだ。ルカ。
ハズキより」
≫まだ一枚手紙が残っている。
濡れた跡が残っている
手紙を読みますか?
はい ▶はハ刃イいヰ
「■■カちゃんへ
大丈夫ですか?
最近、あまり水晶で連絡がつかないの
で手紙を送りました。
マキシズとミキハズキに手紙を書いて
いるところを見られたので、二人の手
紙も同封しました。
返信は無理にしなくても大丈夫です。
私はただ、■ル■ちゃんが泣きそうに
なったとき、そっとそばに寄り添って
ミ■■ちゃんの苦しさが、ちょっとで
も無くなればいいと思って、手紙を出
しました。
無理をせず、ゆっくりと外の世界に慣
れて、いつかの私達が願った夢を叶え
てくれると、嬉しいです。
ハナミズキより」
≫どの手紙も送り先の人物の名前が塗り
潰されているようだ。…なぜだろう?
『 ミタナ…?オマエ、ミタナ? 』
⸺⸺⸺ゲームが落ちてしまった。
丁度いい、今日はもう終わりにしよう。
*
「な、何なんだよ…お前…」
『私ダヨ?泣カナイデ………ミルカニナロウ?ミルカハ私デ、次ハ貴方ナノ。泣カナイデ、次ニ手紙ヲ開ケタ誰カニ、ミルカヲ引キ継ゲバ、貴方ハ戻レルカラネ。ダカラ……変ワロウネ』
「……ぁ、あぁ…やめろ、来るなぁ!来るな!!!………⸺ア、アァ…』
『ゴメンね………⸺戻れ、た…よかった!家に帰れるんだ!!!」
【繰り返されるイベント】