陽月 火鎌

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11/25/2024, 12:47:21 PM

病弱で、食事をあまり食べなかった娘。
ある日娘はこう言った。

「ねぇ、お父様。私ね、この世から開放されるときは、太陽の下がいいわ。⸺私の最期の願い、叶えてくれる?」

娘の願いの殆どを叶えてやれなかった私は、彼女の最期の望みを……叶えることにした。
娘を背負い、日傘を使い、太陽がよく見える花畑へ向かう。向かう途中に陽の光が当たらぬよう、気をつけながら。そして⸺

 ◆◇◆◇◆

「⸺セリカ、ついたぞ」
「んぅ………ぁ。ここ、きれい」
「そうだろう。私も、ここの景色は気に入っていてな。…セシリアの墓があるのも、この花畑だ」
「セシリア…お母様の、ですか。……死んだら、怒られてしまいそうですね」
「あぁ…そうだな」

娘にまだ、陽の光が当たらぬよう、ゆっくりと地面へと降ろす。自然を感じるのが楽しいのか、花を手折って匂いを嗅いでいる。⸺………っ。

「セリカ…そろそろ、日傘を閉じるぞ」
「⸺あっ……そうですね、お願いします。お父様」

日傘を閉じる。
その直後、身体全体に痺れるような痛みが走り、身体全体が沸騰するような熱さに襲われる。何度も経験した通り、身体のあちこちから煙が噴き出し、肉が焼けている臭いがする。

そしてそれは、娘も同じだった。
いや、娘からしたら、父親が同じ痛みを受けていることは、おかしなことだったのだろう。
私も陽の光を浴びていることに驚いた娘は、慌てるように言葉を紡ぐ。

「お…お父様!?お父様は日傘の下にいらしても⸺」
「何を言う。私がセリカと同じ痛みを受けない訳がない」
「なっ…ど、どうして!?」

私の返答を聞いて娘は、訳がわからないというような顔をする。⸺顔が歪むほどの痛みが続いているというのに……セシリアも、表情が豊かだったな。

「悲しいことに、私の身体は陽の光を浴びても消滅することは無い。おそらく、私の血は先祖に近いのだろう。だからこれは、私の推測になるが…私が死を迎える時は、先祖に習って、銀の剣を携えた英雄に殺された時だろう」
「………お父様は、死にたいのですか?」
「ふふっ…セリカ、私はね……セシリアに会う前から、死を待ち望んでいるのだよ」

私の答えを聞き、少しの間口を閉じていた娘は、何か悩んだような表情から、何かを決めたような表情に変わり、私への、最期の言葉を告げる。

「お父様。死んだ後、また会える保証なんてありません。ですから、しっかりとお別れを言います」
「⸺!…そう、か。わかったよ、セリカ。……さよならだ、セリカ」
「えぇ。……さようなら、お父様」

そうして別れを告げた娘の身体はすべて…⸺蒸発した。
骨すら残っておらず、この場に残されていたのは、娘が最期に身に着けていた衣服やアクセサリーの類いだけだった。

⸺その後、どのようにして城に帰ったのか、私は覚えていない。

 ◆◆◆◆◆

「お前が持ってきた、最低最悪と言われた、悪名高き吸血鬼の日記だが……ほぼほぼゴミだったぞ。魔法の記録が一つも無かった」
「えぇぇー……マジですか?それ。オレ結構苦労したんすよ?勇者サマに同行して、勇者サマ一行が吸血鬼と戦闘中にこっそり抜け出して、吸血鬼の私室を荒らして…それなのに、強力な魔法がひとっつも無いとか、オレ働き損じゃないっスか!」
「うるさいぞシュレン。貴様、戻ってきてから更に騒々しさが増したのではないか?」
「うぇ!?…そッスかね?」
「うむ。……貴様をクビにしても、人材は足りてるぞ?」
「ひぇっ!?ちょっ、真面目に!真面目に働くので解雇だけはマジ勘弁してください!!!⸺あっ!オレ、本部の掃除手伝います!今のオレができる仕事をやりますんで、では失礼します!!!」
「………口を挟む間も無く、逃げられてしまったな。まぁいいか、どうせシュレンは捨て駒に近い。⸺ククッ、我らが闇ギルドがこの国を制することは、闇ギルド設立時から決まっている運命なのだよ…フハハハ!」

【誰かの大事は誰かにとってはゴミ同然】



おまけ

「よぉし!ここの掃除完了!それじゃ、次の場所を…⸺あり?なんッスかね、この穴ぁぁぁ!?!?!?」
【とある男、異世界へと呼び寄せられる。しかし、最後はきっと、妖に……。】

11/24/2024, 4:51:30 AM

⸺雨が地面へと落ちていく。
驚いたような顔で、落ちていく。

⸺雪が地面へと落ちていく。
絶望したような顔で、落ちていく。

⸺雷が地面へと落ちていく。
怒ったような顔で、落ちていく。

雨宮早紀も、静寂雪也も、雷堂智哉も。
みんな、彼の名前を言いながら落ちていった。

「ごめんなさい」と、もう届かない謝罪を、彼⸺雲木空は虚空に向かって言い続ける。
しかしそれはいつしか、「やってやった」と、笑い歓喜する言葉へと変わり、雲木空は別のナニカへと変わってしまった。

【乗っ取られた、勇気ある者】


即席キャラの名前(もとい読み方)

雨宮 早紀《あまみや さき》
静寂 雪也《しじま ゆきや》
雷堂 智哉《らいどう ともちか》
雲木 空 《くもき そら》

11/19/2024, 12:15:59 PM


突風が吹き、灯っていた火がまた一つ消える。

「っ、また……」

この部屋のキャンドルの火が全て消えたら、あの方の魔力が……また、灯して行かなければ…あの方、私が敬愛する陛下のために。

私の仕事は、陛下の魔力を底上げしている術式に、常に灯されてなければならないキャンドルの火を見張り、消えたモノには新しく火の魔術で灯す。
それだけだから危険も少なく、陛下の力を支えることができる、戦いができない私にとって、誇るべき仕事なのです。

少し前までは、私以外の方もいたのですが、魔力火の見すぎで、失明したり、精神が擦り減って発狂してしまい、泣く泣くこの仕事を辞めていってしまいました。

ここ最近の陛下は、よく前線へ出向き、軍の鼓舞をしていらっしゃるようで、陛下の魔力の底上げという仕事は常に気が置けないです。正直なところ、いくら敬愛する陛下のためとはいえ、四六時中…たった一人でこの大仕事をこなすのは疲労が溜まりますが、私程度が疲れただけで陛下の力が増すのなら、休みなんていりません。それにこれから先…⸺

「⸺真斗くんが、勇者のジョブだったし、クラスメイトの味方をするのが、みんなの意見だったけど私は、みんなが言ったように、変だから」

だから、魔王である陛下を敬愛して、サポートをするのは、みんなが言ってる変な私でしょ…?

【なんの未練も無い、だからかつての学友に討たれても何も思わない】

11/16/2024, 1:17:50 AM

『親父、遅かった、な……なに、その箱』

俺が小さい時のある日、ずぶ濡れになりながら帰ってきた親父は⸺。

『はは…寂しそうに、しててなぁ。連れ帰っちまった♪』

⸺木箱の中で震える、二匹の子猫を連れ帰って来た。
昔も言ったけど、俺は、今だって同じことを言う。

「ただの猫ならまだしも……オメーが連れ帰ってきたのは、猫系獣人なんだがっ!!!」

今も昔も貧乏なのに、更に二人も増えたら……スゥー、無理だろうが!!!
しかもあいつら悪戯するわ日向ぼっことか言いながら仕事をサボるは色街に出かけて女子引っ掛けてくるわ…お兄ちゃん辞めちまおうか!?あぁ!?

【オレたちの家族に人間は二人います!(長男視点)】

11/14/2024, 3:04:13 AM


「また会いましょう。そしたら…そのとき答えます」

その言葉を聞いて俺は、断られた、と思った。
だってそうだろう…今日たまたま出会えた子だぜ?
今日あったばかりの初めましてなのに、”また”、なんてさ……。

⸺いや、いくら一目惚れしたからって、手首掴んで告白かますとか………俺、犯罪者?



「あー、唐突過ぎて驚いちゃったや……せっかく向こうから声をかけてもらったのに」

ボクはずっと前から彼を見ていた。
だから”また”って行ったけど、彼からしたら、初めましてだったもんな〜…。
次会う時は、二人きりになれる時を狙わなきゃ……彼が他のオンナに盗られちゃうし、それに⸺。

「⸺あんな才能を持った若い子、稀だからスカウトしないと、センパイたちに勝てないし………頑張らないとなぁ」

基軸世界征服計画が世間にバレる前に、優秀な捨てご⸺んんっ、奴隷を確保して、この世界を征服しないとね。

【少年、君のせいで…この世界は終わるのさ(いつか言われそうなセリフ)】

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