病弱で、食事をあまり食べなかった娘。
ある日娘はこう言った。
「ねぇ、お父様。私ね、この世から開放されるときは、太陽の下がいいわ。⸺私の最期の願い、叶えてくれる?」
娘の願いの殆どを叶えてやれなかった私は、彼女の最期の望みを……叶えることにした。
娘を背負い、日傘を使い、太陽がよく見える花畑へ向かう。向かう途中に陽の光が当たらぬよう、気をつけながら。そして⸺
◆◇◆◇◆
「⸺セリカ、ついたぞ」
「んぅ………ぁ。ここ、きれい」
「そうだろう。私も、ここの景色は気に入っていてな。…セシリアの墓があるのも、この花畑だ」
「セシリア…お母様の、ですか。……死んだら、怒られてしまいそうですね」
「あぁ…そうだな」
娘にまだ、陽の光が当たらぬよう、ゆっくりと地面へと降ろす。自然を感じるのが楽しいのか、花を手折って匂いを嗅いでいる。⸺………っ。
「セリカ…そろそろ、日傘を閉じるぞ」
「⸺あっ……そうですね、お願いします。お父様」
日傘を閉じる。
その直後、身体全体に痺れるような痛みが走り、身体全体が沸騰するような熱さに襲われる。何度も経験した通り、身体のあちこちから煙が噴き出し、肉が焼けている臭いがする。
そしてそれは、娘も同じだった。
いや、娘からしたら、父親が同じ痛みを受けていることは、おかしなことだったのだろう。
私も陽の光を浴びていることに驚いた娘は、慌てるように言葉を紡ぐ。
「お…お父様!?お父様は日傘の下にいらしても⸺」
「何を言う。私がセリカと同じ痛みを受けない訳がない」
「なっ…ど、どうして!?」
私の返答を聞いて娘は、訳がわからないというような顔をする。⸺顔が歪むほどの痛みが続いているというのに……セシリアも、表情が豊かだったな。
「悲しいことに、私の身体は陽の光を浴びても消滅することは無い。おそらく、私の血は先祖に近いのだろう。だからこれは、私の推測になるが…私が死を迎える時は、先祖に習って、銀の剣を携えた英雄に殺された時だろう」
「………お父様は、死にたいのですか?」
「ふふっ…セリカ、私はね……セシリアに会う前から、死を待ち望んでいるのだよ」
私の答えを聞き、少しの間口を閉じていた娘は、何か悩んだような表情から、何かを決めたような表情に変わり、私への、最期の言葉を告げる。
「お父様。死んだ後、また会える保証なんてありません。ですから、しっかりとお別れを言います」
「⸺!…そう、か。わかったよ、セリカ。……さよならだ、セリカ」
「えぇ。……さようなら、お父様」
そうして別れを告げた娘の身体はすべて…⸺蒸発した。
骨すら残っておらず、この場に残されていたのは、娘が最期に身に着けていた衣服やアクセサリーの類いだけだった。
⸺その後、どのようにして城に帰ったのか、私は覚えていない。
◆◆◆◆◆
「お前が持ってきた、最低最悪と言われた、悪名高き吸血鬼の日記だが……ほぼほぼゴミだったぞ。魔法の記録が一つも無かった」
「えぇぇー……マジですか?それ。オレ結構苦労したんすよ?勇者サマに同行して、勇者サマ一行が吸血鬼と戦闘中にこっそり抜け出して、吸血鬼の私室を荒らして…それなのに、強力な魔法がひとっつも無いとか、オレ働き損じゃないっスか!」
「うるさいぞシュレン。貴様、戻ってきてから更に騒々しさが増したのではないか?」
「うぇ!?…そッスかね?」
「うむ。……貴様をクビにしても、人材は足りてるぞ?」
「ひぇっ!?ちょっ、真面目に!真面目に働くので解雇だけはマジ勘弁してください!!!⸺あっ!オレ、本部の掃除手伝います!今のオレができる仕事をやりますんで、では失礼します!!!」
「………口を挟む間も無く、逃げられてしまったな。まぁいいか、どうせシュレンは捨て駒に近い。⸺ククッ、我らが闇ギルドがこの国を制することは、闇ギルド設立時から決まっている運命なのだよ…フハハハ!」
【誰かの大事は誰かにとってはゴミ同然】
おまけ
「よぉし!ここの掃除完了!それじゃ、次の場所を…⸺あり?なんッスかね、この穴ぁぁぁ!?!?!?」
【とある男、異世界へと呼び寄せられる。しかし、最後はきっと、妖に……。】
⸺雨が地面へと落ちていく。
驚いたような顔で、落ちていく。
⸺雪が地面へと落ちていく。
絶望したような顔で、落ちていく。
⸺雷が地面へと落ちていく。
怒ったような顔で、落ちていく。
雨宮早紀も、静寂雪也も、雷堂智哉も。
みんな、彼の名前を言いながら落ちていった。
「ごめんなさい」と、もう届かない謝罪を、彼⸺雲木空は虚空に向かって言い続ける。
しかしそれはいつしか、「やってやった」と、笑い歓喜する言葉へと変わり、雲木空は別のナニカへと変わってしまった。
【乗っ取られた、勇気ある者】
即席キャラの名前(もとい読み方)
雨宮 早紀《あまみや さき》
静寂 雪也《しじま ゆきや》
雷堂 智哉《らいどう ともちか》
雲木 空 《くもき そら》
炎がすべてを飲み込んで燃えていく音と、避難者や野次馬、救助に来た人間の声が重なり響き、焦げついた匂いが周りを支配していく。
そんなことが目の前で起きているのに、彼女はこの事態を現実だと信じきれていない。
「ぁ…あ……わた、し…いや、火……いやぁ…」
彼女は”火”にトラウマを持っている。
だから、ガスコンロといった調理器具を使うことも出来ず、どんなに魔法を学び直しても、火属性を扱うことが出来ずにいる。
「けど…中……探しに、行っちゃってる……っ…」
彼女は親友とその娘である少女の三人で、燃え続けている建物に遊びに来ていた。
親友が少女に贈るプレゼントをこっそり買うために、少女の見守りを彼女に任せて別れていた最中に、この火事が発生した。
アナウンスの避難誘導の声に従って、周りの避難する人々の流れにのって、少女と共に外へ避難した彼女だったが、暫く経っても親友に会えず、いても立ってもいられなくなった少女が、消防士や周りの声を振り切って、未だ燃え続けている建物へ行ってしまったのだ。
「どうし、たら……いいの…?」
その質問への返答は、返ってこない……いや、答え自体は彼女の中に存在するのだ。ただの恐怖が、彼女をその場に縛り付けている。恐怖さえ乗り越えればいいのだ。
しかし、彼女を助ける存在は…⸺彼女の恐怖を消せる存在は、今は疲れきってしまっていて、頼れない。
⸺はぁ……このままだと、別のお前と同じ未来に行き着くぞ。今のお前が動き、別のルートのお前と違う行動をすれば、お前の親友と少女を助けられるというのに。お前はお前の天使ちゃんとやらを、助けたくないのか?
「あ……この、声…幻聴、じゃ……ない…?」
⸺当然だ。
「動けば、間に合う…?」
⸺あぁ、そうだ。
⸺決断しろ。
私の言葉を聞いた彼女は自らの頬を叩き、口を開く。
「……私、決めた。二人を見つけて、助ける。魔法を見られたら嫌われるだとかは、終わった後で考えればいい。私が持ってる力全部使って二人と……逃げ遅れた人を、火の海の中から助け出す」
⸺そうか…お前は、赤の他人も救うのだな。
「あら…貴女の時は、助けなかったの?」
⸺!…やはり、気づくか。
「当然。でも、なんで助言してくれたの?それくらいは聞いてもいいでしょ?ね、私」
⸺私は、絶対的な盾を無くしてしまったからな…お前より失うことに慣れて、私以外の結末に興味がなくなってしまったのだよ。
「ふーん…アイツがいなくなったことを乗り越えてる、ね。結構精神にキたでしょうに。まぁ、私以外に興味が無くなるのは、私も同じことになりそうだし、分からなくもない。⸺ほら私、そろそろナレーション再開してよ。あると気分上がって魔力の操作のキレが増すからさ!」
⸺あぁ、了解した。
彼女は何も存在しない空間に向かってしていた会話を終えた後、いくつかの魔法を発動させる。
酸素が無くても息ができる魔法。
火傷をしないよう、火炎耐性を付与した結界魔法。
素早く動けるよう、身体を強化する魔法。
人の位置を把握し、なるべく最短の距離で助けられるように、一定範囲を探知し続ける魔法。
それらを発動させ、走り出す。
途中、彼女を静止する声や前に立ち、彼女を止めようとする人間がいたが、彼女は声を無視し、人間は飛び越えたり、合間をすり抜けたりなどをして、建物の内部へ、助けを待つ幾人かの元へ向かう。
彼女の中にある恐怖が、完全に無くなった訳ではない。
しかし、勇気というモノで、一時的に覆い被せて感じないようにすることはできる。
⸺見せてよ、私。アイツがいて、甘ちゃんのままだった私が、アイツの手を借りずに抗う姿を。
【私は私を応援している】
⸺貴女の宝物はなんですか?
「え、うーん…記憶、かな。色々あったし……ていうか、そういう風に聞かれると黒歴史が刺激さr⸺ムグッ!?」
⸺うるさいお口にはシュークリームでも詰めときましょうねぇ〜♪
⸺お前の宝物はなんじゃらほい?
「いや聞き方のクセ……まぁ、あなたが最初に質問した馬鹿ですよ。分かってるでしょうに」
「こらー!誰がバカだぁー!」
⸺いつ見ても仲良しだなぁ。
⸺おじちゃんの宝物ってなあに?
「………子どもです。即座にぶん殴らなかったオレを褒めてほしい」
⸺わぁ!凄すぎます!
「…わざとらしいな」
⸺お嬢さんの宝物を教えていただいても?
「え‥‥キモッ」
⸺普通に心に刺さるから、次言う時は、もちっと優しく言ってくれるかな?
「検討はしときまーす!で、宝物だっけ?私のは……⸺あったあった!これが私の宝物!」
⸺あぁ…初めての、で…あってる?
「そ、私が初めて組み立てた鏡ね。いやぁ、いつ見ても惚れ惚れする…流石私の初めての制作物!!」
⸺楽しそうだねぇ…君らしいよ。
【続・四人に聞いてみた!】
突風が吹き、灯っていた火がまた一つ消える。
「っ、また……」
この部屋のキャンドルの火が全て消えたら、あの方の魔力が……また、灯して行かなければ…あの方、私が敬愛する陛下のために。
私の仕事は、陛下の魔力を底上げしている術式に、常に灯されてなければならないキャンドルの火を見張り、消えたモノには新しく火の魔術で灯す。
それだけだから危険も少なく、陛下の力を支えることができる、戦いができない私にとって、誇るべき仕事なのです。
少し前までは、私以外の方もいたのですが、魔力火の見すぎで、失明したり、精神が擦り減って発狂してしまい、泣く泣くこの仕事を辞めていってしまいました。
ここ最近の陛下は、よく前線へ出向き、軍の鼓舞をしていらっしゃるようで、陛下の魔力の底上げという仕事は常に気が置けないです。正直なところ、いくら敬愛する陛下のためとはいえ、四六時中…たった一人でこの大仕事をこなすのは疲労が溜まりますが、私程度が疲れただけで陛下の力が増すのなら、休みなんていりません。それにこれから先…⸺
「⸺真斗くんが、勇者のジョブだったし、クラスメイトの味方をするのが、みんなの意見だったけど私は、みんなが言ったように、変だから」
だから、魔王である陛下を敬愛して、サポートをするのは、みんなが言ってる変な私でしょ…?
【なんの未練も無い、だからかつての学友に討たれても何も思わない】