絶体絶命のピンチの中、咄嗟に脳裏に思い浮かんだのは、昔言われた一言。
『⸺お前って、調子に乗ると駄目だよなぁ』
なんのヒントにもならねぇじゃねぇか!!!
全く役に立たねぇ走馬灯だなぁ!!!
「顔芸してるとこ悪いけど、サッサと食べなよ」
「いやだチーズ食べたくない、吐く」
「自己申告で食べれるって言ったティラミスなんだからさぁ…」
いやだ!このティラミス、チーズが重ったるくていやだぁ!!!
「……床に置くかあーん、どっちが良い?」
「え・・・?⸺って、前者は駄目だろ!!!まだ後者だろうが!!!」
「じゃあはい、あーん」
「ふぇ?あ、んむ……チーズが強くなければ、好きな味」
「そ?作ったかいあるね」
ほんっと私より料理上手なの腑に落ちない……おいひい。
【ただのいちゃつくカップルだこれ!】
手を伸ばす?
意味が無いことだ。
大声を出す?
意味が無いことだ。
希望を持つ?
意味が無いことだ。
ここは、罪を犯した人間が収監される大穴であり、地獄と称される、ディレスト監獄。
ロープを垂らして人が登り始めるとロープを切ることが趣味な監獄長や、どれだけ傷つけても死なない看守たちが所属する監獄を、知っている国家はもういない。
【じゃあこれを書いている人物は一体…?】
あなたはとても冷たい。
私はあなたを暖めることが出来るの。
だから、私はあなたより暖かいわ。
あなたは小さい。
私はあなたを抱きしめることが出来るの。
だから、私はあなたより大きいわ。
あなたには冬以外は殆ど会えない。
私はあなたが冬の外で冷やしてきた心も身体も癒せるの。
だから、私はあなたより褒められる仕事をしているわ。
⸺だから、もっと感謝の心を持ちなさいな!
◇◆◇◆◇
「うんうん♪ちゃんと感謝してるよ。だからこうして天気のいい日は天日干ししておひさまの匂いを込めてるんだぞぉ〜」
「……あの、なんで毛布の魔導具使ってるんですか?」
「電気毛布より早く優しく温めてくれるから」
「そのメリット以上に、デメリットになり得そうな自我が生まれてるんですが???」
「これも魔導具の醍醐味醍醐味〜♪」
「……はぁ」
【これから暫く世話になるぜ毛布!】
私、振られちゃった…こんな、滅多に人の来ない、山の頂上でさ………ロマンの欠片もない振られ方されちゃった。あ…はは……雨も、降ってきちゃったな。
けど、いつもより柔らかい…あは、天が私のこと慰めてくれるの?…酷い、な。
どこで、間違えたのかな…私はたくさん尽くして、適度に距離をとって…都合のいい女過ぎたのかな。
そうかも、しれないなぁ……えへ。
「さようなら、”6番目の私”。”7番目の私”は、6番目や過去の私より、いい男を見つけるから」
⸺流石に、同じ場所で6回振られちゃうと、デートコースは見直した方がいいって分かるか…。
【7番目の私も、恋をする】
「ここが”人物の墓場”…ここに、あの子が……」
”人物の墓場”……物語が終わって人物としての役目を終えた者、物語の作り手である、私の上司が忘れてしまった者などが眠る場所。
ここに来た理由は一つ。私の外での初めての親友が、ここに眠ってるって上司から聞いて、会いに来たから。
⸺ぶっちゃけ、”私”の親友は生きている。ここに眠るのは、IFの彼女。
うじうじ悩んで一切成長せず、彼女の死を見届けた私がいたなんて……いや、”私”の方も同じようになる可能性だってあったわけか。
「ちょいちょい墓標の名前に見覚えがあるなぁ。ミラに櫻に……おいちょっと待て何処に『やられ役』と墓標に刻むやつがいるんだよ………いるから刻まれてるのか。酷い忘れられ方をした奴がいたんだな」
人物の墓場は、島の世界とも言っていいだろう。何処までも広がっていそうな空と海に囲まれた、自然豊かな島のあちこちに墓標が建てられいる。
⸺人物の墓場を思いついたとき、島に関する物語にハマってたのかな、上司。
「いつか私も、ここに眠るのかなとも思ったけど……上司のあの様子じゃ、私がここで眠る可能性は低そうだなぁ……⸺あ、あった」
親友の墓があったのは、色とりどりの花々が咲き乱れる花畑を一望出来る、崖の上。思わず溜息が出るほど、綺麗な景色…好きだな、この景色。
「こんにちは…”私”とは初対面だし、もしかしたら貴女が知ってる私とは性格が違うのかもしれないけど……墓参りに来たよ、私の天使ちゃん。果実酒と、それに合うツマミを持ってきたんだ、ゆっくり語れたら……と思ってるんだけど、どうかな…?」
【島の音は、自然の音と話し声】