物語の始まりはいつも突然だ。
生きているモノとして生まれることから始まったり、絶体絶命な状況で走馬灯の如く振り返るように始まったり、何でもない日常から非日常に変わることが始まりだったり。
⸺じゃあ、我が部下たる君が、一番理想とする始まりはなんだい!!!
「……相変わらず唐突ですね。………何でもない日常から、ちょっぴり不思議な体験をする、のが理想ですね」
え、そうなん?てっきり、ラストバトルから始まってそのバトルになるまでの鬱展開をじっくり〜ってタイプかと思ってたわ。
「私に平穏を求める思考が定着するほど主人公的立ち位置を押し付けてるのって誰でしたっけ?」
………へへ。じゃあな!!!
「あっちょっおいコラ!⸺クソッ逃した……家事しよう。イライラは、積み重ねるしかない作業で徐々に沈めるのが私にとっての最高効率なんだから」
【この日常は遠い未来。もしくはIF】
⸺貴女にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「うーん、色々あるけど………大量の切り傷で許されたと思ったら、死海レベルの塩水かけられたこと、かな。未だにあの時の痛みはトップクラスに痛かったし…心にもちょっとダメージもらったし」
⸺貴方にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「………子供の頃にもらった、殆どのおかずの味付けが全く合ってない弁当。忘れたいくらい、味付け合ってなかったけど…それ食べて、料理出来るようになろうって決めたから」
⸺貴方にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「あー……身内で飲んだ時、みんな揃って泥酔して性癖暴露大会になったこと。俺も性癖言ったが代わりに奴らの性癖が知れたから、損は…そん、は………ははは()」
⸺貴女にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「初めて……家族を指す言葉を言った時かな。こっ恥ずかしかったけど、みんなを初めて家族だと思ってるって…言った時だから」
⸺最後に、質問者に言いたいこと等がありましたら、どうぞ。
女は言う。
「給料上げてください。月一万ってなんですか、お小遣いレベルじゃないですか…給料上げてください」
男は言う。
「時々、女装してくれと言いながらデザイン画送りつけるの、止めてほしい」
彼は言う。
「もうちょっと俺のキャラ煮詰めてくれ。苦労人ポジいてほしいのは分かってるが…俺だって大ボケかましたい」
少女は言う。
「恋人くれなきゃリア充撲滅委員会に所属するぞ。さぁ今度こそ私に恋人フラグを寄越すのだ!!!」
【四人に聞いてみた!】
やわらかな光。暖かく、包み込むような印象を受ける。
しかし、真っ暗闇の中だったら?
*
「なんで灯りを回復魔法使った時のエフェクトで確保してるんだろう」
とある洞窟。行くなら暗闇で火属性魔法か灯り魔法、松明などを持っていけと近隣の街の酒場や武器、防具屋で物凄く念押しされるのだが、この馬鹿⸺失礼、この女は街によらずに洞窟に行ってしまった。
ちなみに余談ではあるが、女はいわゆる転生者でもある……Tと、もう一文字つくタイプではあるが。
「回復魔法で灯りを確保してるから無いよりはマシ程度だし、そもそも回復魔法を使う為に自傷行為に走ってんの明らかに奇行なんだけど……はぁ」
なお、女が通った道には血がポツポツと落ちている。回復魔法を限りなくゆったりと発動させているが、いかんせん回復していくのでいずれ治る。治り切る前に傷をつける……の繰り返しで洞窟の奥へと進む。
女が洞窟の奥へと向かう理由。
それは、女は気付いていないが、この洞窟の主に魅了をかけられているからだ……食料目的で、だぞ?
「そろそろ、最奥かな……?」
やわらかな光⸺否、この暗闇の中に対しては心許ないとしか言いようがない光では……昼間に見ても怖いとしか言われない洞窟の主の姿を見たら、恐怖心しか無いだろう
第三者こと書き手だって怖いし。実体験してる女はこれ以上に恐怖を味わっているだろうな、ははは。
⸺その後女は、死に物狂いで逃げ、二度と冒険に出ないことを誓ったとか、そのまま洞窟の中を永遠に彷徨ったとか……色々な噂が広まっている。
*
「唐突に物語を考えろと言われ、お題を投げられた側の気持ち、分かる?」
なはは、知らん。
「このクソ上司が……まぁアドリブって難しいってことは再確認できたから、いっか」
君のそういうとこ、嫌いじゃないねぇ。
【エフェクトで灯り確保って、実際どうなんだろうね?】
『………』
見つめ合う。
「………」
目が、合う。
『………』
これは…目を逸らした方が負けだ。
相手は肉食獣のような、鋭い眼差し。
こっちは、愛玩動物のような純粋な瞳。
……………あれこれこっちが負ける?
『………⸺コヒュッ』
「え……え!?」
久々に帰還した我が故郷。私のお気に入りの場所に居た、隣の青い星から来たであろう知的生命体。
興味が湧いて、コンタクトを取ろうとしただけなのに……あろうことか相手は気絶してしまった。
⸺私はどうしたらいいんだい………?
【ワタシナカーマ、敵ジャナァーイヨ】
ようやく、手が届く。
他者を踏み台にしながら手を伸ばす。
届け、届け、届け。
やっと、届いた。これで私はこの、じご、くを、ぁ………”また”糸が切られ、最下層へと落とされる。
ここはいくつもの階層が存在する地獄。
時折現れる天の糸を登って地上を目指す、醜き亡者の群れを押し退け糸へと手を伸ばす、それが日常。
⸺あぁ…また最下層からやり直しか………。
地上は高く、いつも亡者を見下ろしている。
【地上を夢見る亡者の数は、両の手では足りない】