空模様
寂しい日に雨が降ると「ああ、空が泣いている」と人は言い、
おめでたい日に太陽が燦々と輝くと「ほら、天が祝っている」と言う。
街にもみの木が飾られる時期に雪が降ると恋人たちは身を寄せ合い、
雪が溶けてアスファルトが見えるのが当たり前な時期に雪が降ると異常気象だと首を振る。
晴れる日も曇る日も雨の日も雪の日もただそこに空があるだけなのに、人はそれに名前をつけようとする。
感情を創ろうとする。
女心と秋の空だろうが、男心と秋の空だろうが、気まぐれに移り変わるのは心だけだろうに。
空は地球が回れば変わるのだ。そういうものなのだ。
けれどその日その日の気分に空をも味方につけようとする言葉たちが好きでたまらないのだ。
だから、ああほら、今日のこの佳き日に君よ幸せであれ。
鏡
Spiegel im Spiegel
いつまでも捨てられないもの
あのときああしておけば良かった、こうしておけば良かったっていう未練とか。
ぼろぼろになったタオルケットとか、学生時代から使ってるイラストがもう擦れて無地になってるシャーペンとか。
「それ、もう捨てなよ」っていろんな人に呆れ笑いされたものたちを
「持てるものの懐深いね」ってあなたが笑うので
なんだかこの先も持ってていいのかなって思ってしまうから、もし本気じゃないなら勘違いさせないで。
誇らしさ
どんなことだってその踏み出した1歩は
踏み出すまでの努力があってこそのものだから
踏みしめたその足跡は
積み上げてきたことの証だから
あなたが今そうしてそこにいることが
何よりも誇らしいから
夜の海
すぶすぶと
ざわざわと
いつもより昏い顔を見せる波音に魅せられて吸い寄せられていく
月が映し出されたその水面はムーンロードというのだとか
それを歩けば月を辿れるのだろうか
では今宵新月の暗闇に道が断たれてしまうのだろうか
すぶすぶと
ざわざわと
耳も目も段々と海の音で満たされて吸い寄せられていく
潮の香りに包まれたか抓まれたか
誘われるがままに打ち寄せ打ち上げ
全てを流す打ち消す波になろう