なおみ すずや

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9/1/2023, 2:05:21 PM

※BL
※編集中※

【UNDER_TAKER 小噺】

バラ園を抜けてしばらく経ったが、まだ香りがしているような気がする。
開花もしていない蕾だったのに。

薄い陽光が照らす中、青々とした芝生を踏み進めて歩く。
まだ植えられたばかりのそれにはもうヘたりが見え始めており、それほどこの芝生が踏まれたという事を表していた。
そのへたりこそ、生者の歩いた跡であり。
そして死者への思いの証であった。
並ぶ碑の間を進む足はさくさくと音を立てる。



この村は10年前に盗賊団の襲撃に遭い、村人たちは住むところを余儀なく追われた。
その盗賊団も程なくして去ったが、その頃の村人たちにはもう別の生活があった。
何より、あの惨劇の

─────しかし1年前に「界戦」が終結し、制度の立て直しが始まって治安復興が進み出した。
そして8ヶ月前、先代村長の孫息子が新村長となり、ついにこの村は再起を遂げた。
そんな村の小さいながらも活気のある中心地を抜け、名産であるバラ園を抜けたその先。
俺は今、恋人の墓参りに来ている。

墓地の端っこの、更に端っこの方。並ぶ中でもひときわ小さな墓石の前で止まった俺は、目線を合わせるように屈み、それをそっと撫でる。
まだ誰も掃除をしていないだろうに綺麗なままなのが、どうしようもなく悔しくて寂しかった。
「お前は、ここに帰ってくることを何年待ち望んでいたんだろうな……」
どうしようも無かったよ、大丈夫だよなんてこいつは言うんだろうが。
俺は気付いてしまったんだ。
よりにもよって、こいつの置き土産のせいで。

ぱしゃんっ、と持ってきたバケツの水を墓石に被せる。
「本ッ当に、いつも詰めが甘ぇんだよお前は」
そう言いながら、墓石全体を丁寧に拭きあげていく。
「帰れる可能性なんて無いようなもんだったくせに」
刻まれた文字の溝、それを囲う線の溝、隅々まで布巾で拭いていく。
「どうせ俺を連れて行きたいからとかそんな魂胆だったんだろ?」
丁寧に、丁寧に拭きあげていく。
「だから、」

「あんな簡単におっ死んじまって」

ガン、ばしゃりと音が弾けた。
見やると。
どうやら掃除に夢中になるばかりで、足元が疎かになっていたみたいだ。

直そうと下を向いた時、ぽつりと芝生に水滴が乗っかる。
空は相変わらず快晴とは言えないような、薄ぼんやりとした陽光を放っているままなのに。
しかしそれに向けた背は、じりじりと焼かれるように痛い。痛い。どうしようもなく痛い!
気付かないふりをしていたかったのに。
炎に焼かれた時よりも耐え難いその痛みは、背中から心臓へ、心臓から喉元へ、喉元から腹へ、指先、頭の先まで焼き付いていく。
その痛みは紛れもなくバラの香りを放っていた。

「……生きるって、痛ェな……」
崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまった俺は、
薄ぼんやりとした陽から落ちる、薄ぼんやりとした影。そこにとめどなく落ちていく水滴。
それを止める術なんて、わかる訳もない。



「お前さあ、いつもつけてるこれなんの匂いなんだよ?」
「ん?香水だよ?」
「お前が付けてるとこ毎日見てるわバカタレ。そうじゃなくて、なんの匂いの香水かって話だわ」
数年前、まだテイカーが壊滅するなんて考えもしなかった頃。あいつが生きていた頃。
いつものように出撃前の準備をしていた

8/31/2023, 10:22:02 PM

僕は、僕らは不完全だ。
だって生きてるから



伝えたいことを短くまとめると一つ一つはこれくらいになる。こういう本当に些細なことを如何に誤解ないように伝えられるかが技量にかかっている。

8/25/2023, 2:23:45 AM


【青二才リアリスト】

たらればとか、やるせないだとか
結果が出なかっただけだろう
駄目だったもんは駄目だったそれだけなのに
何をそんなに執着するんだ
理解ができないな
そんなこと言ってる間に力を付ければいいのに
心だとかそんなもんに惑わされるなんて馬鹿だ
馬鹿だ
馬鹿はお前の方なのに
なんでそんな目で僕を見る

8/24/2023, 8:29:23 AM

※死ネタ、BL(風味)



【UNDER_TAKER 小噺】

███主任研究員の部屋より見つかった手記より抜粋。

「8/24(D) L:77°F H:87.8°F

実験最終日。対象を海へと放流してきた。
水槽から海へと移してやると、暫く立ち泳ぎのようなものをしてから陸へ上がろうとした。
「もうお家に帰っていいのよ」とディクルム研究員が声を掛けると、抗議の声のようなものを上げて陸へ上がろうとした。
彼■本■に戻っ■■大■■な■■と■安に■■■。(雑に消された痕跡がある)
そのままでは埒が明かないと思い、僕が ̶彼̶対象の頭部を撫でると落ち着きを取り戻した。
またここで宥めすかしても暫くすれば陸へ上がろうとする可能性があるので、計画を変更して沖合まで連れて行くこととなった。

移動には地元の漁師、ガプタ=エカ(72)(男性)さんの小型船舶を貸して頂けた。
沖合へ移動していると、最初は不思議そうに着いてきたがやはり慣れ親しんだ場所であろう。
その身を存分に動かして海を楽しんでいた。
淡い黄色の鱗が反射し□、目に痛□□どだった。
(滲んでおり判読が難しい箇所がある)
本当に、今□で見た□□な□景より□□麗だった□
彼を勝■に■えた挙■研究■■にし■癖に、愚か■も帰■■■ない■■て思っ■い■。
人としても、研究者としても愚か者だ。

沖合まで移動して間もなく、かつての仲間と思しき黄色い鱗の個体が複数現れた。
そのまま帰るかと思いきや(結局解明はほとんど出来なかった)彼らの言語で二言三言話した後、こちらへと向かってきた。
彼がしきりに手を伸ばすので少し身を乗り出すと、頬に口付け(と仮称する)をされた。
研究員をつついてちょっかいを出したり、腕を掴んで気を引くなどの行動はこれまでにも見られた。しかしこのように口付けをするという行動は見られたことがなかった。人魚にも様々なスキンシップの概念はやはりあるようだ。

その後私たちが呆然としていると、確かに聞き間違いでなければ
「またね」
と対象は発話し、群れの元へと戻って行った。
こちらの言語を喋るという、これもまた初めての観測だった。
最初は帰りたくなさそうな素振りを見せたが、やはり群れの中がいちばん居心地が良いのだろうか。
仲間が来てからは呆気ないほど颯爽と去っていった。
でも、もし聞き間違いでなければ。

彼はこちらに戻ってくる心積りがあるから、あんなに早く去ったのだろうか。
そうなのだろうか。

いや、これは僕の個人□な記録なの□□□何も臆する□□は無い□ずだ。
そうで□って欲し□□確か□□は思っ□□□。」





この手記は8/27以降を境に何も記されていない。



「───やはりあの人魚に入れ込んでいたんですね」
ユーミス=ディクルムは少しくたびれた手帳をぱたんと閉じる。
「だから警告したのに……」
対象に入れ込む事、研究の投資を投げ出すような判断、そして彼自身の精神への影響。
若くして研究の指揮を取るほどに評価される彼を狂わせたのは、やはり……
手元にあるもうひとつの書物。
昨日の朝刊を痛ましい顔で見る。

「《120年振りの快挙!金色種人魚の捕獲に成功》
28日未明、地元漁船団エカ組合がルベノ漁の途中、漁船へと向かってくる不振な影を発見。
ライトを向けると近海では絶滅したとされる金色種の人魚である事が判明した。
人魚の中でも金色種は特に貴重とされており、漁船団は直ぐに捕獲へと乗り出したという。
組合長のガプタ=エカ(72)さんは
「あれは本当に夢かと思ったよ、人魚さんは逃げるどころかこっちに顔を出してきたのさ。だからそのまま簡単に捕獲出来たって訳よ」と信じられないという顔で語った。
しかし捕獲後しばらくしてから暴れだしたため、生け捕りには出来なかったようである。」

「ディクルムさ……主任研究員!」
ついこの間までただの後輩だった研究員に呼ばれる。突然のことだからまだ皆慣れていないのだ。
なにもかも。
「ああ、ごめんなさい。すぐ行きますから」
そう言ってかつての師の、そして今は自分の研究室を後にする。

私は微かに香る秋の気配から逃げるように歩き出した。

8/22/2023, 11:43:59 AM

正義の裏返しは正義だ。
討つべき対象を誤るな。
お前の求める悪はそこには無い。

真の悪は個々の中にのみ存在する。
孤独でも戦え、そして見極めろ。

お前にとっての正義はなんだ。
お前にとっての悪はなんだ。
絶えず問いかける「私」の言葉にとくと耳を傾けよ!

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