うちは齢六十五を超え
定年を迎えたおばあちゃんじゃ
若ぉ頃にどこぞのイケメンをとっ捕まえ
長年の交際の末結婚し
男の子を2人も授かってのぉ
昔はやんちゃでわしらもよく怒ってたのじゃが
今となっては真面目にばりばり働いておってのぉ
2人とも結婚しわしゃ孫を拝めることができたぁ
旦那さんも定年を迎え
ゆったりとした生活を送っておる
誰が見ても充実した人生なのじゃが
うちは定年してからひとつ志しとることがあってのぉ
世間は夢物語だと吐き捨てるじゃろうが
うちは富士山を登りたいと思ったんじゃ
ある日何気なくテレビを見ておるとのぉ
富士山の山頂で見ることのできる景色が映っておって
それがもうキラキラ輝いておってのぉ
うちはその場で立っておったわい
旦那さんにもそれを話すとなぁ
「わしも一緒に行こうかのぉ」
と言ってくれてのぉ
準備をしておるんじゃ
まるで夢見る少女のように心が揺らいでのぉ
こんな経験何時ぶりじゃろうか
うちは何を言われようとな
絶対にあの輝いた景色をこの目で見るのじゃ!
(夢見る少女のように)
外が騒がしくなったある朝
いつものように目覚め
いつものように朝食をとり
いつものように制服に着替え
ある所へ向かう
そこへ着いた途端
周りの仲間は私に敬礼をした
その顔は勇ましく笑顔でいっぱいだ
少し会釈をして工事へ向かった
機器の最終確認を終え
仲間と最後の談笑をたのしんで
そんな私たちは写真を取られた気がした
ゴーグルと手袋を手に取り
その機器に乗り込み
エンジンを蒸かし
左を見るとまた私の目を見つめ敬礼していた
不思議と私は落ち着いていて
昨日までの手の震えはなく
みんなに笑顔を振る舞いた
「我が日本軍は最強なり」
隊長の掛け声と共に仲間も復唱した
あ、いつもの手の震えだ
死ぬのはやっぱり怖いなぁ
でも日本軍の役にたって散ってやる
そう心に決め目を閉じる
いろんな記憶が蘇ってくる
最後に散って行った仲間に連れられ
進みだす時を迎えた
「さあ行こう」
(さあ行こう)
ここはどこ?
なぜ私は下を向いているの?
目の前がよく見えないや
少しずつ視界が開けてくると
何かが見えてきた
顔がくしゃくしゃになってて
その周りが真っ暗だ
あれ?
なんでそんなこと分かるのかな?
あ、そうか
涙の池に私が映ってるからか
つらいよ
しんどいよ
あぁ、私も幸せになりたいな
(水たまりに映る空)
ある夏の日。
私は来たる大学受験に向けて、地域の図書館の隅で毎日1人黙々と勉強に勤しんでいた。
夏の暑さとミンミンと鳴く蝉の声が私を包みこみながら、いつものルーティンをこなしている。
そんなある日、ある問題が理解出来ず、参考書を取ろうとカバンを手に取ったが、生憎、参考書を家に忘れてしまったため、図書館で参考書を探すことにした。
普段は図書館内を歩き回ることなどないから新鮮だ。参考書を見つけ、それを見ながら席に戻ろうとしたその時、
「わぁ!」
と誰かとぶつかってしまった。
「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
倒れた私に手を差し伸べながらそう言うと、青年の手を借りて立ち上がった。
「す、すみません!私の不注意で、」
その言葉と共に彼の顔をよく見ると、年齢は私と同じくらいで、どこかで見た事のあるような、なんだか懐かしいと感じた。
その場を立ち去ろうとする彼に、私は考える間もなく走り出した。
「あの!私たちどこかで会ったことありませんか?」
勇気を振り絞って聞いてみた。
「うーん、ごめんなさい。」
そう言って立ち去って行った。
その日から彼の顔が頭から離れなくなり、また会って話をしてみたいと思う様になった。
これは俗に言う恋心なのかなと感じていた。
「そうだ、彼はあの図書館に来て本を借りていたってことは、再びここに来るはずだ!」
そう思って、受験勉強と並行して彼を探すことにした。
来る日も来る日も図書館内を見渡していたが、彼が来る気配が一向にない。
耳に残るセミの声が次第に小さくなっていき、受験もあと数ヶ月とあとがない状況で、最後の仕上げ段階を迎えていた。
私はあの日から一度も彼と出会えておらず、尚更、彼のことが頭から離れなくなった。
今日は赤本で去年の分をしようとしたが、これもまた家に忘れたため、再び図書館から借りようと思った。
赤本のあるコーナーに向かうと、見覚えのある背丈と髪型があった。
私の胸は高鳴っていき、今までに感じたことの無い感情で体温が上がっていた。
「あ、あのぉ、」
そう呼び掛けると振り返って不思議そうにこちらを見ていた。
「私のこと覚えてませんか?」
そう問いかけると、彼は淡々と答えた。
「以前、ここでぶつかった方ですよね?」
それを聞くと少し嬉しくなって、
「覚えててくれたんですか?嬉しいです!」
「図書館の外で少し話せませんか?」
勇気を振り絞って言ったら快諾してくれた。
彼と談笑しているうちに色々と分かったことがあった。
彼も私と同級生で、隣町の高校に通っており、たまに故郷であるこの地域に来ているようだ。
家族関係は教えて貰えなかったが、色んなことをしれてとても嬉しかった。
さらに同じ大学を志望していたらしくよりやる気が上がった。
試験当日、とても緊張していて、問題の内容が頭に入って来ず頭はパニックに陥っていた。
一日目が終わり、意気消沈しながら1人帰路についていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
後ろを振り返ると、あの彼がいた。
屈託のない笑顔で私の元へ来てくれた。
そんな彼と今日の試験のことなど歩きながら談笑していると、彼が不意に悩みを打ち明けてきた。
「実は僕、物心つく前に両親が離婚してお父さんと二人暮しだから、迷惑かけない為に国立のこの大学受けてるんだよね。」
それを聞いて、私ははっとした。
私と彼、やっぱり何かが似てる。
「君はどうしてこの大学を受けようと思ったのかい?」
そう問いかけられて、咄嗟に言葉がまとめられなかった。
「わ、私もあなたと同じような境遇でこの大学にしたんだよね。」
初めて会った時の懐かしさとなにか関係がある気がする。
そして彼は駅に着くと、
「お互い似たもの同士だから奮起しあって頑張ろう!」
と言って、遠のいていった。
外が徐々に闇に染っていき、街灯の明かりがひとつ、またひとつと光を帯びて行く頃、家まであとすこしのとこまで来ていた。
やっぱり彼のことが試験のことよりも頭から離れない。
でも、 彼と一緒にこの大学に行くために最善を尽くすと心に誓った。
その日の夜夢を見た。
目の前を見ると、小さな子供が2人遊んでいる。
どことなく私と、あと大事な人。
忘れてはいけない人。
そこに私の母と男の人がそばで見守っていた。
そこから意識が遠のいて行った。
試験二日目、昨日の夜に誓った通りとても奮起することが出来た。
試験が終わり、その束縛から解放されると同時に彼のことが気になって仕方がなかった。
彼に会いたい、伝えたい、そう思ったのに。
この日彼を見つけることは出来なかった。
少し経って、新しく大学生として今日を迎えることが出来た。
あの日からずっと気がかりだったが、前ほど意欲的ではなくなっていた。
入学式、整った身なりで写真を撮ったり、友人と話したりしている人たちばかりだった。
私も、こんな風になれたらいいな。
すると突然、背後から肩を叩かれた。
「久しぶりだね」
(恋か、愛か、それとも)
約束だよ
君はどんなときも笑顔で
誰に対しても優しくて
誰一人として見捨てない
私の心の支えになってくれて
いつも引っ張ってくれた
私はそんな君が誇りだよ
でもね
弱音は吐いていいんだよ
弱い自分を見せることは恥ずかしいことじゃない
悲しいこと
辛いこと
どうしようもないこと
死にたくなること
そんな時私に話して欲しいな
事切れてからじゃもう遅いよ
頼りない私だけど
何もしてあげられないかもしれないけど
頼って
私はいつでも待ってるから
約束だよ
(約束だよ)