カチ、カチ、カチ。
真っ暗な部屋に短針の音が響く。私はのそりと寝返って手を伸ばし、時計を見た。一時だった。
慣れない小さな部屋の中、私は一人、今も眠れずにいる。なんだか今日は、妙に緊張してしまう。そりゃそうか、だって今日は……。
「ねぇ、もう寝た?」
思い切って小さな声を上げてみる。1秒、2秒。布団が擦れる音がした。
「あかり、まだ寝てなかったんだ?」
隣から弱々しい声がした。パタ、パタン。奥からも、スリッパの音がする。
「やっぱ寝れないよねー! 電気つけていい?」
ふわぁ。誰かさんの小さなあくび。
「せっかくうとうとしてたのに! つけないでよぉ」
そう、今日は修学旅行旅行の日なのだ。こんな一大イベントの時に眠れるわけがない。
「どうする? トランプでもする?」
「えー、恋バナは?」
「廊下出てみようよ」
「行っちゃう?」
この時の私たちは、まだセンセーたちが廊下で目を光らせていたことに気づいていない。
お題「眠れないほど」
夢って儚い。
起きて5分後には、ほとんど忘れてしまう。
目覚ましを止めて、冷たい水で顔を洗う。朝食を食べて、いつもの電車に乗り、いつもの職場へとたどり着く。
つまらない日々。いつもと何も変わらない。
だけど、そうして現実に浸って時間を過ごしていると、ふっと夢が浮かび上がってくることがある。
ああ、あんなこともあったな。いい夢だったな。あの時は怖かった。どうしようかと思った。そういえばあの人、今頃どうしてるかな。会いに行きたいな……。
夢は、過去の現実を呼び起こす目覚まし時計だ。
お題「夢と現実」
「今頃みんな、部活かなぁ」
ある日突然、わたしの青春は消え去ってしまった。
小さな窓から、茜色に染まった空を見上げる。
わたしにとって家は、唯一の居場所。
もう一ヶ月近く、家を出ていない。
あの頃は、悪夢だった。
教室に入ったら、誰もわたしに目を向けなかった。
出席を取る時も、名前を呼ばれなかった。
話しかけたら、無視された。
笑い声が聞こえるたび、自分のことかもしれない、と思う。
そんな考えが頭をよぎる。
学校が息苦しい。みんなは平気なのに。
さよならも言わずに、私は学校を抜けたんだ。あの日から。
お題「さよならは言わないで」