20231005【星座】
星繋ぎ
天空(そら)に描く絵空事
88(ハチハチ)紡ぐ 神かたり
※ 短歌モドキ
20231004【踊りませんか?】
夢にみた
舞踏会のあでやかさ
『踊りませんか?』
あどけなき開花まつ
いまはまだ壁の蕾
※短歌モドキ
20231003【巡り会えたら】
いちどは 偶然
にどは 奇遇 次を数える
さんどめは 『巡り会えたら』
いよは 必然に
※短歌モドキ
20230925【窓から見える景色】読了時間 約3分
※注意※創作短編。
「僕さ、きみのこと嫌いなんだよね」
「は? 喧嘩売ってんのか、てめぇ」
食堂で向かい合わせになった同窓の男が、出し抜けに挑発的なことを言ってきた。
『急に、何故そんなことを?』という疑問よりも先に、血の気の多い口が勝手に応じた。
和気藹々としていた周りの空気が二人を中心に、一瞬で微量の電気を帯びる。
男は「ああ、ごめん」と前置いて、
「僕、素直な性格だから、思ったことをつい言っちゃうんだよね」
と、人好きする顔で笑った。
「答えになってねぇんだよ。俺と喧嘩してぇのかって、聞いてんだ」
頬の筋肉が、感情にあわせて無意識にピクピクと動いた。ふざけやがって。
二人は同年の同窓だったが、友人ではなかった。
接点と言えるものは、一度、球技のこぼれ球を片方が投げ返してやったという程度しか無かった。それもすら、双方の記憶に残ってはいなかった。
「喧嘩かぁ、それも良いかな。いつか、そんな事もあったねって成れたら良いね」
男は意味不明なことを言うと、半分ほどしか手を付けていない食事を残して、席を立つ。
勢い任せに立ち上がると、幾つもの仲間の手に止められる。落ち着けと諭されても、受け容れることは出来ない。
どんな怒声や罵声を背中に浴びせても、男は振り返らなかった。
彼らが戦闘機を操る教育機関を卒業するまでの間に、これに似た遣り取りが、数年続くこととなる。
――――――
――――――
それも昔の話、と呼べるようになった頃に、何故あんなことを言い出したのかと問い詰めた。
男は「ああ、あれね」と、ショットグラスを一気に呷る。人を食ったような態度は、いまさら直す気も無いようだ。
「君ってば、女にはさっぱりモテないくせに、男にばかりモテるんだもの。からかいたくなって、当然だろ?」
「何が、当然だ。それより、女にモテないのは余計な世話だ」
男にモテる、と揶揄されるのは今この男から始まった訳では無い。だが気分は悪かった。せめて人望があるとか、とにかく他にあるだろ。
お互い、何杯目かのショットグラスを呷った。度数の高いアルコールに焼けた声で、男は大口を開けて笑う。
「まぁ、そんな事もあったよね」
普段はけして見せない、悪餓鬼の顔。なんで、こんな奴が女にモテるのか全く解せなかった。
――――――
――――――
戦闘機が、夏の面影を遺した雲の中へ消えていく。照り付ける陽を、手で翳した。長い轟音が響き渡る。
男は現役のエースパイロットと呼ばれ、今日も戦闘機に乗っている。空を諦めた今も、男が見慣れているであろう、雲を敷き詰めた景色を忘れられなかった。
選ばなかった未来は、虚しいほど眩しかった。だが、後進を育てるという己の決断に悔いは無い。
いつか互いの命が潰えるその時、また思い出して言うのだろうか。
そんな事もあったか、と。
「地上だけに浮かぶ、青」END
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20230918【花畑】読了時間 約5分
※注意※黒幻想創作短編。
「おい、何している」
相手への気遣いのない声が掛けられる。声を掛けられた相手は、柔和な顔で振り向いた。
「あぁ、中尉。ご機嫌よう」
何を、暢気に。舌打ちを押し殺して、中尉と呼ばれた青年は愛想のない声音で、自分より背が高くやや装飾めいた軍服の男を睨(ねめ)付ける。
「さっさと、自分の配置へ戻って頂けませんかね? もうすぐ、出発だ」
敬うつもりはないが、敬語は使わねばならない相手に対して、青年の語彙に統一性はない。
「敬語は必要ないと言ってるのに」
そう言って、男は柔らかく微笑む。よく手入れされた金色の髪が、秋の木漏れ日に輝く。
「ほら、見て。季節の花がとても綺麗だ。なんて花だろう。中尉は知っているかい?」
「知らねぇし、興味もない」
苦笑する男に、青年は苛立ちを覚える。こいつ、自分が今から戦争の最前線に送られると分かっているのか。
「出発が近いなら、戻らなければ」
赤い大輪を咲かせた花々を、愛おしそうに見回す。その光景を目の奥に刻み付ける様に、しっかりと瞼を閉じる。もう二度と戻ることはないと、男にはよく分かっていた。
「一服するから、先に行け。すぐ、追います」
返事を待たずに、巻煙草を咥える。
「煙草って、おいしい? 僕には、あまり健康には良くない様に思えるけど」
「早く行け、、、行って、ください」
「うん、また後でね」
優雅に外套を翻し、男は背を向けてゆったりと歩き出す。男自身も花のような香りを残して去った。
いちいち、態とらしい。青年は、今度こそ遠慮なく舌打ちした。火をつけようとして、ひしゃげている煙草に気が付く。思わず、力んだ指で曲げてしまっていた。
「くそっ」
「いつ会っても、機嫌が悪い奴だな」
煙草をしごいて直していると、あきれたと言いたげな義兄が現れた。
「もうすぐ、出発だぞ」
「わかっている。暢気な王子様を急かしていたんだよ」
あぁと、義兄は訳知り顔で頷く。
「なんだって、俺が世話係なんか」
「歳が近いからだろ。王子様は、お友達をご所望だ」
「誰がなるか、そんなもん」
やなこった、と煙を共に吐き捨てる。いつも以上に不機嫌な義弟を後目に、煙草を取り出し火を付けた。
「それで、王子様はここで何をしていたんだ?」
「お花が綺麗なんだとさ。下らん」
くっと顎で示す先に、赤い花が群生している。近く寄ると、多少乱れているものの人の手で管理されているらしいことが見て取れた。周囲の村民が、手遊びにでもしているのだろうか。
窄まった花弁が密集しているのを見て、記憶を辿る。
「確か、ダリア、だったかな」
「あんたが、花に詳しいとは微塵も知らなかった」
ひとりで得心している義兄を皮肉った。
「君の姉さんに、いつも花を贈るからね。どうだ、愛妻家だろう。もっと羨ましいがってもいいよ」
「羨ましくねぇよ」
短くなった煙草を一気に吸い尽くすと、吸い殻を剥き出しの岩に擦り付けた。
「どいつもこいつも、頭ん中はお花畑か。付き合ってられん」
聞き慣れた義弟の舌打ちに、紫煙で返す。
「案外、王子様も分かってるのかもね。自分の行く末を」
「ただの、実績稼ぎだろ。下手すりゃ死ぬっていうのに、暢気なもんだ」
「さて、それはどうかな?」
不機嫌に怪訝を加えた眉間に、いっそう皺が寄った。吸い殻を岩で擦り消すと、足元の麻袋を指差した。
「これって」
「あの、くそ王子。自分の荷物も碌に管理できねぇのか」
最早、この行軍中に義弟の機嫌が良くなることは無さそうだった。
――――――
――――――
「殿下、やっぱり戻ってあいつら殺しましょう」
「気軽に、物騒なことを言うものじゃないよ」
男の後ろには、童顔に似合わない据えた目をした青年が従っていた。荷物を取りにいちど戻ったが、耳の良い従者を引き留める方を優先した。
「頭の中がお花畑なのは、あいつらの方だ」
従者の言葉に、ふっと笑みが零れる。それでも良い、今はまだ。
「僕はね、本当に花畑を作ろうと思っているよ」
「そんなに、花が好きでしたっけ?」
「好きになったよ、ついさっきね」
王位継承順位などというものに従う気は無かった。彼らは王位継承権を持った者を、死地に送って一人消したつもりだろう。巧妙に隠しているつもりなのか、あからさまなのか判断に迷うところだった。
「あの赤い花を植えよう。きっと、鮮やかに咲くだろう」
栄養は、多い方が良い。例えば、血肉が豊富で強欲に塗れた、獣に似たものが。
「荷物は、良かったのですか?」
「あとで、中尉が持ってきてくれるよ」
「俺は、あの人キライです」
「思いの外、お前と相性が良いかもしれないよ」
「絶対に、有り得ません」
従者は、あぁ気色悪いと己の腕を擦った。似た者同士と言ったら、どうなるか。
「友達が欲しいのは、本当だしね。仲良くなれたら良いんだけど」
「無理でしょう、向こうもそう思っているはずです」
「それは、残念だね」
まぁそれなら仕方ない。ただ、決め付けるのはもう少し先にしておこう。友人になるかならないか、その時が来たら改めて聞けば良い。
行軍開始の合図が、空高く鳴り響く。
この数ヶ月後、第四王子の消息は歴史書から一度消えた。
二年後、彼の名は「叛逆」の言葉と共に再び歴史書に現れる。
「裏切りの、花を」END
Thank U 4 reading!