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20230925【窓から見える景色】読了時間 約3分

※注意※創作短編。



 「僕さ、きみのこと嫌いなんだよね」
 「は? 喧嘩売ってんのか、てめぇ」


 食堂で向かい合わせになった同窓の男が、出し抜けに挑発的なことを言ってきた。

 『急に、何故そんなことを?』という疑問よりも先に、血の気の多い口が勝手に応じた。

 和気藹々としていた周りの空気が二人を中心に、一瞬で微量の電気を帯びる。

 男は「ああ、ごめん」と前置いて、

 「僕、素直な性格だから、思ったことをつい言っちゃうんだよね」

 と、人好きする顔で笑った。

 「答えになってねぇんだよ。俺と喧嘩してぇのかって、聞いてんだ」

 頬の筋肉が、感情にあわせて無意識にピクピクと動いた。ふざけやがって。

 二人は同年の同窓だったが、友人ではなかった。

 接点と言えるものは、一度、球技のこぼれ球を片方が投げ返してやったという程度しか無かった。それもすら、双方の記憶に残ってはいなかった。

 「喧嘩かぁ、それも良いかな。いつか、そんな事もあったねって成れたら良いね」

 男は意味不明なことを言うと、半分ほどしか手を付けていない食事を残して、席を立つ。

 勢い任せに立ち上がると、幾つもの仲間の手に止められる。落ち着けと諭されても、受け容れることは出来ない。

 どんな怒声や罵声を背中に浴びせても、男は振り返らなかった。

 彼らが戦闘機を操る教育機関を卒業するまでの間に、これに似た遣り取りが、数年続くこととなる。


――――――
――――――

 それも昔の話、と呼べるようになった頃に、何故あんなことを言い出したのかと問い詰めた。

 男は「ああ、あれね」と、ショットグラスを一気に呷る。人を食ったような態度は、いまさら直す気も無いようだ。

 「君ってば、女にはさっぱりモテないくせに、男にばかりモテるんだもの。からかいたくなって、当然だろ?」
 「何が、当然だ。それより、女にモテないのは余計な世話だ」

 男にモテる、と揶揄されるのは今この男から始まった訳では無い。だが気分は悪かった。せめて人望があるとか、とにかく他にあるだろ。

 お互い、何杯目かのショットグラスを呷った。度数の高いアルコールに焼けた声で、男は大口を開けて笑う。

 「まぁ、そんな事もあったよね」

 普段はけして見せない、悪餓鬼の顔。なんで、こんな奴が女にモテるのか全く解せなかった。

――――――
――――――

 戦闘機が、夏の面影を遺した雲の中へ消えていく。照り付ける陽を、手で翳した。長い轟音が響き渡る。

 男は現役のエースパイロットと呼ばれ、今日も戦闘機に乗っている。空を諦めた今も、男が見慣れているであろう、雲を敷き詰めた景色を忘れられなかった。

 選ばなかった未来は、虚しいほど眩しかった。だが、後進を育てるという己の決断に悔いは無い。

 いつか互いの命が潰えるその時、また思い出して言うのだろうか。

 そんな事もあったか、と。



 「地上だけに浮かぶ、青」END

 Thank U 4 reading!
 

9/25/2023, 10:19:47 AM