紅の記憶
思い出す貴女はいつだって夕焼けの中にいる。
青いリボンの巻かれた麦わら帽子をかぶって、
私に背を向けた茶髪のロングの貴女。
靡く真白のワンピース。
肩から覗くひまわりとネモフィラの花束。
全てを塗りつぶす紅の中で、
貴女の纏う色だけが鮮明に焼き付いている。
恋などという下賤なものではない。
愛などという高尚な思いでもない。
笑顔の似合う貴女。
私ではない誰かに微笑む貴女。
今はどこにいますか。
誰かと幸せになっていますか。
愛しい我が子を抱いているのですか。
大切な誰かと手を繋いで歩いたりするんですか。
どちらにせよ、もうお目にかかることはないでしょう。
夏の貴女よ、どうかお幸せに。
君を照らす月
真昼の空に、月がいないわけなじゃない。
見えない、見えにくいだけでうっすらと、
ぽっかり今日に浮かんでいる。
取りこぼされたドット模様の丸みたいに。
真昼の月は、真っ白にそこにいる。
空の青を取り込んで、水色に。
太陽から、他人から受ける光の照り返しで照らしている。
誰かの力を上手に使って、別の誰かを照らしている。
弱々しい。非常に弱々しい。
しかし確かに照らしているのである。
tiny love
見慣れた路地裏の隠れた喫茶店。
その奥の奥の方にいつもあなたは座っている。
湯気の出たカップを片手に、本を読みながら。
私はいつもカウンターに座るから、あなたと目が合ったことはない。
栗毛色の髪をした、赤い雫のピアスのあなた。
お互いに、存在していることは分かっている。
けれども、決して深くは交わらない。
ただ、たまたま同じ喫茶店にいただけ。
ただ、たまたま同じ時間帯にいるだけ。
それだけの浅い、浅い交わり。
隣人未満。顔見知り以下。
私たちの関係値に名称はない。
まぁ、それはそれとして。
あなたがこれからも、赤い雫のピアスでいればいい。
無表情に、かといってつまらないわけではない顔で
本を読んでいればいい、と思う。
秘密の箱
一人ひとりが違う種族のように多種多様な僕ら。
ですからいつだって他人の頭の中身なんてわからないものでして。
キラキラ輝くマドンナの君は先日死にました。
今はギラギラベタつく復讐者です。
あなたはいつだって強かった。
勉強も運動も話も大変上手で見目もよくって。
非の打ち所なんて一切ない。
まさに素敵に無敵。
しかしあなたの内心は地獄であったらしくて。
毎日毎日補充した分以上に削り取られる心は
疾うの昔に底をついていたようで。
あなたは頭の中身を、思考をぶちまけて叫びました。
いつだっていつだって私は一人。
だから素敵に無敵になるんだよ。
だってそうじゃない?
じゃなきゃ生きづらいじゃない!!
笑って、泣いて、暴れて、蹲って、君は大変忙しそうだった。
あなたの中身はぶちまけられました。
ですからこんどはこちらのばんではないでしょうか。
あなたのようにキラキラしていたら壊れてしまうなら。
完璧だったからぶっ壊れてしまうのなら。
はじめからなんにもないままぶちまけてみましょうか。
無人島に行くならば
一人は嫌いと常々笑う君がそんな問いをかけてくる。
無人島に行くならば君は何を持っていく?と。
特に一つとも言われなかったのであれこれ答えていると
君は持って行き過ぎだと吹き出した。
そういうお前は何にするんだと聞いてみりゃ、
これまた笑顔で全部と言いやがった。
お前こそ持って行き過ぎだとつついてやれば、
これまた楽しそうにきゃあきゃあ笑う。
お前が言った全部の中に、俺は居るんだろうか。
それとも物だけ持ってって、お前は一人で居るつもりなのか。
どうしてそんな顔で笑ってられる。
今にも泣きそうなその顔で。
でも絶対無人島なんて行かないと思う。一人は嫌いだから。
結局お前はからから笑って、そのままここを離れていってしまった。