10/8/2024, 12:14:16 AM
犬を抱く。
未来から来た私は、全ての神経を集中させて犬を抱く。
隙間なくすっぽりと、毛の一本さえも愛おしく。
甘えたでやきもち妬きなこの犬は、そのことを理解しているように満足そうな顔をしている。
未来から来た私、というのは。
今までに何頭も犬を見送ってきた私の、言わば生活の知恵である。
犬は死ぬ。人間も死ぬが、圧倒的に犬の方が死ぬ。
覚悟をもって犬の死を迎えても、身を引き千切られるような苦く冷たい日常はおとずれる。ふと気配を感じて足元を見る時に。玄関のドアを開けた時に。窮屈ではない布団に入り、灯りを消した時に。
そうして、私は必ず、少しでいいからあの頃に戻りたいと思う。
私は時々未来から来た私になって、犬を抱く。
9/23/2024, 6:10:21 AM
おぉーい――・・
男の声がきこえる。姿はみえない。
おぉーい――・・
右足を一歩前に出そうとして左足が埋まったところで、自分がいま砂の上に立っていることに気がついた。
はた、と前を向く。
足元の砂地は、先の先まで続いているようだった。
周りもまた見渡す限りの砂地である。
おぉーい――・・
なんとなく心許なくて、声のする方を探して歩きはじめる。
足をとられて思うように進まず、次第に苛立ってくる。