【 幸せな日 】
暖かい。前迄は冷たい風が頬を刺したのに、今では暖かく優しい風が頬を撫でてくる。目に髪がかかるのを手ではねながら、暖かいNYの街を歩く。
今日は異次元からの敵は今のところ感知していないし、気配は感じられない。ストールの形をしているクロークが、ちょいちょいと私の顔をつつく。つつかれた場所を触ってみると、風に吹かれてきた花弁が顔についていた。
可愛らしい、青色の花。
まるでどこかの異次元を移動できる少女によく似た花だと思った。
「クローク、今日は本屋にでも行こうか。」
そう話しかけると、クロークは私の頬を撫でる。
一般人からしたら、暖かく天気の春爛漫とした日
私、いや私達にとっては、幸せな日
【春爛漫】
【 独 】
愛した彼女は、私の腕の中で消えた。
私のせいで、死んでしまった。
彼女を救いたいという傲慢なエゴのせいで。
そのエゴが、彼女を殺してしまった。
私は、ただ、彼女を救いたいだけだったのに
いつからか、歯車が狂ってしまった。
私が狂わせてしまった
彼女を、私はただ、愛していた
愛していたかった。そのエゴのせいでこの世界は滅んだ
何度嘆いた
何度救おうとした
何度縋りついた
何度私を罰してくれと頼んだ
何度も、何度も、何度も、何度も
誰よりも、ずっと、愛していた彼女を、彼女が愛していた世界を、救ってくれと頼んだ
【 相棒 】
「待ってくれよホームズ!」
「ハハハ!こんな面白い事件、待ってなんて居られないよワトソン!!!」
ぜぇぜぇ。と息を切らしながらホームズの後ろ姿を追いかける。全く、君より私の方が歳老いているのをわかって欲しいものだ。いや、それは一生無理だろう。
ホームズの興味を引く事件だ。さぞかし“楽しい”ものなのだろう。少し立ち止まり息を整える。
「ワトソン、最近3ポンド太ったね?運動が足りていないんじゃないか?」
彼が大きな声で、それもロンドンの街中で言う。私は、恥ずかしい気持ちで、ホームズの方へ走ってゆく。心做しか、ホームズの目がキラキラと子供のように輝いて見えた。
「さぁ!僕のいない間の3ポンド分、僕と一緒に埋めていこうか」
「……ハハ!勿論だよホームズ!」
ロンドンの街には、探偵と退役軍医の声が響いていた。
【これからも、ずっと】
【 沈む夕陽と魔術師 】
疲れが押し寄せてその場にへたりこむ。これ以上この場にいたら頭がおかしくなりそうだ。いや、もうおかしくなってるのかもしれない。異次元へと行ったのが何日前だったかも忘れてしまった。どのくらい経った?2日?それとも3週間だろうか。いや、もしかしたら1時間だけかもしれない。異次元と現実とでは時間の流れが違うと教えられた。魔力がもう残り少ないのか、手がいつもより震えている。スリングリングを付けて、いつもより何回か多く回す。ポータルをくぐると、サンクタム・サンクトラムの大きな窓の場所に出た。窓辺に座り、窓に体重を預ける。ちらりと外を見ると、沈んでゆく夕陽が見える。赤く、綺麗に輝いている夕陽。大きな窓には、夕陽の光が入り、明かりがなくとも照らしてゆく。
夕陽。ここは異次元では無い。現実世界。クロークが私を包み込んで、手を撫でてくる。このまま寝てもいいよ。そう言っているのだろうか。
「…御言葉に甘えるよ、クローク。ありがとう」
礼を言い、目を瞑る。