この程度なら濡れながらでも帰られるのに。そうしないのはもう少しこうしていたいからかしら。
薄淡く光る曇天。
足早に横断歩道を渡る人達。
同じ制服、制服、制服。
予報外れの雨はそれでも控えめに、生徒達の足を急がせる。立ち止まらせる程の強さも無く、音さえもしない。
うわー、まじか。
駅まで走れば大丈夫でしょ。
いけるいける。
よし、いくかあ。
笑いながら外に飛び出す男の子達。一体何が可笑しくて。
そうして私はもうずっと、生徒玄関でこうしている…一体何が楽しくて。濡れて困る理由なんて無いのに。
いつもなら遠くに聞こえる運動部の喧騒も聞こえない。人がいなければ静かなのだ、ここは。
ただの雨なのに、ね。
なんだかもどかしくなって
私はようやく歩き出す。
雨なんか降ってないみたいに、いつもの速度で。あえて、あえて。
ちょっとだけ、皆と違う風にしてみようかなって。
違うのに、いつものように、だなんて変だけど。
雨は温い
私を少しだけ湿らせる
その程度だったよ。
(柔らかい雨)
ここは夜だ
私がカーテンを閉めたから
ヒステリックにまでしてきっちり閉めたのに、どうしても完全には閉じてくれない。
どうしてもどうしても、繋がっていなければいけないか。
一筋であろうと照らされる。浮き彫りにされる。明かされる。羞恥。醜悪。嫌悪。
夜だって言ったのに。
私が決めたのに。
光は、世界は
私を見つけて逃がさない
絶望のまま観念して
丸くなって目を閉じる
世界はやっと夜になる
窓に背を向け
暖かさに刺されながら
私は私の
子宮で眠る
(一筋の光)
そこはほら、あれ
催眠術の要領で
そう念じたらそうなるよ
だから大丈夫
少女よ
君は可愛い
(鏡の中の自分)
一番ぐっとくるの
夜行性の人
私より
ずっと後に眠る人
深夜の高速道路を
コンビニエンスストアを
ラジオの交通情報を
ソーシャルネットワーキングサービスを
頼らなくて良い
眠らない人を探さなくて良い
いってきます
と
いってらっしゃい
に似てる
安心を確認して
私は意識を離す
眠りにつく前
最後に見る姿は
いつもの背中でいてね
(眠りにつく前に)
あんたの好きな
永遠とか運命とか
ガラでもなけりゃあピンともこないけど
私の心はいつでも素直だよ
それこそ永遠に
惚れるならそこだけに惚れて
ばーか
(永遠に)