この変人は1月も3日の夜更け、今日もきちんと時計は2周し、4日になってから初日の出の映像を観ているらしい。
「何で観てるの?」
「ゆーちゅーぶ」
かの有名な動画共有サイトでの富士山からの初日の出ですか。そうですか。
「それ観るなら、今から山なり海なり車出したほうが良いもの観れるんじゃない?」
「まーそりゃあそうなんだけどねぇ…」
歯切れ悪いな。
「この手軽さがいーんじゃん」
まぁ、確かにな。と思った私も怠惰な人間だろうか。
床に黒い猫が這いつくばっている。
「何してるの?」
「書き初め」
整った字を書く黒猫は、昨日年越しに何の興味もみせなかった同居人である。今日も全身真っ黒い服を着ている。まぁ墨で汚れることを配慮したのかもしれないが、黒以外の服を着ているのはあまり目にしない。思い直せば正直似合ってもないなと内心、苦笑する。
「なんて書いてるのー?」
「フトーフクツ」
ふとーふくつ、ふとうふくつ、…ってなんだったか。
「何があっても挫けないーって意味だった気がする」
「へぇ」
〝不撓不屈〟とさらさら書き上げたこの人間に、挫けるようなイメージはない。本人にしかわかることではないが、一体何を考えてんだろう。
無造作に数刻の間つきっぱなしだったテレビは数分前から出演者みながそわそわとしている。そろそろ騒ぎ始めるころか。
新しい年がそんなに嬉しいのか
どうせ365日後にはさらに次の年を喜んで迎えているだろうに。なんなら一週間もすればたいていの人々は去年と同じことをしているのではないか。地球滅亡の日でもあるまいし、何がそんなに……
「新しい年になるねー」
隣から聞こえる腑抜けた声。よく聞き慣れた彼女のものだ。
「そー、だねー…」
答えに詰まった気がする。勘付かれたかも。
「りずちゃんこーゆーの興味ないもんねぇ」
からからと笑う声。いかにも楽しそうだ。
ごー!よん!さん!にー!いち!
テレビが始めたカウントダウンはあっという間に終わった。
ハッピーニューイヤー!!
何か特別に変わったような気はしない。まぁ当然か。
「あけましておめでとう」
開口一番そう言われる社交辞令。
「あけましておめでとー」
でも、それでも。
少しだけ心が温まった気がした