不完全である苦しみを
知っている者同士の哀切は
ときに愛へと形を変え
お互いを慈しみあい
支え合って生きていく
不完全である僕たちは
傷だらけになりながら
支え合うことで知らず知らず
不完全性を
おぎなっているのだろう
人類が生まれながらに持つ
不完全の遺伝子
僕にも
あなたにも
#不完全な僕
もう十数年も会わないあなたのことを
不意に思い出したのは
目の前を通り過ぎた風の中に
あなたの香りを感じたからだ
あなたにもらった愛に満ちた日々が
遠いところから今 突如として
ここにもたらされたかのように
鮮明に思い出される
懐かしさと後悔をともなって
もしあなたに会えるとしたら
なにを伝えるだろう
詮ない思いに ひとり笑って
そこに漂う残り香を
いつまでも探していた
#香水
だまってそばにいてください
だまって肩を並べて
あなたという命を
こちらに傾けてください
言葉にならない悲しみに
言葉ではなく
あなたの真っ直ぐなまなざしで
わたしをあたためてください
#言葉はいらない、ただ…
その猫は
父が残していった形見だっただと
今でも思っています
荒れた裏庭の草を刈っていると
遠くのほうからぎゃあぎゃあと
変わった声で鳴きながら
その猫は
わたしを見つけて歩み寄ってくるのです
もうお父さんはいないんだよ
と言って聞かせても
わかっているのかいないのか
いつしかわたしに気を許し
近くの草の上に寝転んで
作業が終わるのをじっと待っているのです
家主を失った家はしんと寂しくて
わたしは何度涙をこらえたことでしょう
そのたびあの鳴き声がやってきて
ころんとした身体のあの子がやってきて
わたしにまとわりついては
やさしく慰めてくれたのです
ああ さび
きみは今 どこの空の下にいて
どこで夜露をしのいでいるの
またその声が聞きたい
またひょっこりと現れるのを
わたしはいつまでも待っているから
#突然の君の訪問。
にわかに雨が降り出した
舗装された道は色を変え
雨の匂いも強まって
いつしか蝉も鳴き止んだ
雨のノイズは心地よく
わたしをやさしくあやすけど
待てど暮らせど来ぬ人を
ここでこうして待つことの
愚かさに雨は降るのでしょうか
水たまりに映り込む
人の影
人の影
待ち人は 未だ来らず
#雨に佇む