その猫は
父が残していった形見だっただと
今でも思っています
荒れた裏庭の草を刈っていると
遠くのほうからぎゃあぎゃあと
変わった声で鳴きながら
その猫は
わたしを見つけて歩み寄ってくるのです
もうお父さんはいないんだよ
と言って聞かせても
わかっているのかいないのか
いつしかわたしに気を許し
近くの草の上に寝転んで
作業が終わるのをじっと待っているのです
家主を失った家はしんと寂しくて
わたしは何度涙をこらえたことでしょう
そのたびあの鳴き声がやってきて
ころんとした身体のあの子がやってきて
わたしにまとわりついては
やさしく慰めてくれたのです
ああ さび
きみは今 どこの空の下にいて
どこで夜露をしのいでいるの
またその声が聞きたい
またひょっこりと現れるのを
わたしはいつまでも待っているから
#突然の君の訪問。
8/28/2022, 12:12:46 PM