私だけができないことは
いくつも思い当たるのに
私だけができることとなると
それがあるのかさえおぼつかない
私でも
できること
私だから
できること
それを模索するほうが
堅実的というものだ
#私だけ
なぜ赦せるの?
とあなたは訊いた
子どもの頃の記憶は
けっして明るいものばかりではない
あの日々が今も
この人格に影を落としている
それでも今生きていけるのは
恨みの心を捨て 赦したからだ
なぜ赦さなければならないのか
と人は問う
苦しいからだ
自分を見失うからだ
赦さないでいいんだ
と人は言う
確かに赦すなんて綺麗ごとだ
赦せなくていいんだ
でも 友よ
いつの日か赦さなくてはならない
それは自分の尊厳のためだ
自分というものを生きるためだ
わたしたちは皆
赦されて生きている
あの頃の記憶も傷もすべてが
自分を形造っていることを
あなたはいつの日か
受け入れられるようになる
友よ どうか
その日を信じて待ってほしい
#遠い日の記憶
晴れた日の太陽は
あなたの内なる熱
雲に遮られる日は
見透せないあなたの心
雨降りそそぐ日は
あなたの哀れみの涙
いつの時代も人は
見えないなにかを見るために
おのが心の目をひらく
途方に暮れ
人が空を仰ぐとき
それはひとつの祈りである
#空を見上げて心に浮かんだこと
あなたのいるこの空は
青く輝くこの空は
十七歳のあの日の空と
なにも変わってはいないのですね
あの夏の日
自分の内にある闇を
遠い空の彼方に向かい
何度うち明けたことでしょう
あなたはただ黙って
わたしの声に耳を傾け
目の前を流れる雲は
哀しいくらいに穏やかで
姿なき慰めを
一心に受けたものでした
あの日に見上げた空と
いま目にしているこの空は
まったく変わるところがない
不思議なくらいに変わらない
変わったのは
わたしの心ばかりです
今はもう
見上げる空に慰めを求めず
世界に生きる人の一員となり
あなたの心が知りたくて
この青空を見上げています
#目にしているのは
なぜ人は
人と比べてでないと
自分を推し量れないのだろう
なぜそこに
自分と比較する対象を
求めてしまうのだろう
人は
どこまでも不確か
不完全
確かな人間は
どこにもいないというのに
優れているだの
劣っているだの
そんな誰かの価値基準に
なんの意味があろうか
周りの声に振り回されず
自分の声にも惑わされず
あなたは
ただあなたを生きるのみ
#優越感、劣等感