夕風が 冷んやりと
ほてった体を吹き過ぎて
陽の落ちた 縁側で
お腹を見せたトラ猫が
我がもの顔で寝ております
待宵草の咲く時分
宵闇迫る 夏空を
飽かずにながめるふたりです
一番星 みぃつけた
#夏
あなたはどこへいったのか
どこへいくのかわたしは
約束も交わさず別れたのに
いつかまた会えるのだと
あなたは固く信じていた
たましいはただ
深く眠り
誰も触れられない場所に
護られている
目覚めの時がくるまで
夢も見ない
すべてから解き放たれて
わたしを思い出すこともない
あなたはどこへいったのか
どこへいくのかわたしは
#ここではないどこかで
その突然の手紙は
わたしを懐かしくさせると同時に
苦い思い出まで運んできたようでした
あなたから離れたのは
やむにやまれぬ事情ゆえでしたが
それをきちんと説明したくなくて
わたしはあの場所から去りました
いえ 逃げたのです
若かったのです
弱かったのです
でもこれは 後悔ではありません
あなたに最後に会った日から
これまでのいく歳月
いろんなことを忘れ
いろんなことを知りました
一口では語り尽くせないことが
お互いにあったことでしょう
その忘れていたはずのわだかまりに
今さら向き合えとおっしゃるのですか
最後に会ったあなたが
どんなふうに笑ったのか
もう思い出せもしないのに
#君と最後に会った日
労せず 紡がざるなり
野の百合は ───
自らの散り際をわきまえた野の花の
いさぎよい生き方など
どうしてわたしに真似られよう
しがない小さな命であるのに
なぜにこの奇跡が
自分の生まれた奇跡にもまして
尊く 手の届かない存在であるかのように
わたしを圧倒するのだろう
いずれ枯れゆくか弱い花
神秘なひかりを身に宿し
楚々として咲きほころび
見る者の心を明るませる
誰もが 同じ御手から生まれたのなら
誰もが 奇跡のルーツを有するのなら
この命 どうして無下にできようか
#繊細な花
一年後 あなたはもう
ここにはいないかもしれない
一年後 わたしももう
ここにはいないかもしれない
この家の玄関の巣から
旅立ったツバメが 一年後
帰ってくるかはわからない
今年きれいに咲き並んだ
ダリアの花が 一年後
ふたたび咲くかはわからない
なにもわからない
わたしにも あなたにも
それを知るすべを持つ者は
誰もいない
不確実に時はすすみ
不確実に時は来たる
それゆえ人は明日を思い
希望を抱いて臨むのではないか
見えない道の先
約束のない未来へ
#1年後