#月夜
「なんでお月様は着いてくるの?」
手を繋いだ子どもが尋ねてくる。
「そう?お月様着いてきてる?」
保育園のお迎えの帰り道。
冬なので暗くなるのも早い。
そんな中ちらちら後ろを振り返りながら不安そうな顔をしている。
「うん!絶対着いてきてるよー」
「ちーちゃんがちゃんと帰れるか、お月様も心配してるのかもよ?」
「そーなのかなー?おうちまで来る??」
「お月様大きいからなー!おうち入れるかな?」
眉間に皺を寄せる小さい顔が可愛らしい。
「そしたらご飯作ろ!」
「何作るの?」
「オムライス!」
「まんまるの?」
「まんまるの!」
「お手伝いする?」
「する!」
手を引かれるようにして走って帰った。
#絆
「久しぶり、元気にしてる?」
何年ぶりかの幼なじみからの電話だった
「どしたの?急に連絡とか。何かあった?」
そう聞くと、
「いや、なんかあったのあんたでしょ」
と言われた。
「なんか胸騒ぎしたんだよね」
そういう彼女に驚きが隠せない。
泣き出しそうな嗚咽混じりに声が出なくなる。
「なんで分かるの?」
「SNSの写真とか見て何となく」
「私なんか病んでる投稿とか上げてないよ?天井写真とかしてないし」
「そんなの無くてもわかるの」
「エスパーかよ」
「ねえ、どこに居んのよ?」
「……公園」
「市役所の側の?」
「うん」
小さい頃から良く遊んだ公園だ。
「時計塔のとこで待ってなさいよ。飲み行くわよ」
「え、顔ぐちゃぐちゃなんだけど」
「あんたの顔なんて誰も見ちゃいないわよ」
「うわ、ひど」
有無を言わさない彼女の言動に笑いが込み上げる。
普段から連絡取り合うほどに今は親しくないくせに、
こんな時にさっと気付いてくれる彼女。
自慢の幼なじみである。
#たまには
深呼吸して、
周りを見渡してみるのもいいんじゃない?
いつも行かないような公園とか山とかいってみてさ
そういうとこが無理なら
早朝のベランダでもいいよ
ぐっと伸びをしてさ
それとも逆に
引きこもってみて一日寝てみる?
休み潰れて勿体ないなとかどうでもいいから
洗濯日和だなとかすらどうでもよくて
ただグダグダ過ごしてみるのもありだよ
毎日頑張ってる君に
上手い気分転換になる事があるといいね
#大好きな君に
今これを見ている君は何歳でしょう?
きっと今まで色んなことがあったと思います
今までの楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、辛いこと
その全てが君を形作っています
その時に傍に居られなくてごめんね
一番傍に居てあげたかったけど、
それは叶いませんでした
どんな人に育ったのかとても楽しみにしていました
どんな節目にも立ち会いたかった
近くには叶わなかったけど
少し遠い所から見守っていますからね
私の事は忘れてもいいのです
君には未来があります
どうか心身ともに健やかに過ごせますように
明日の君が今日の君よりも少しでも輝いていますように
祈りを込めて
#ひなまつり
ぼんぼりに灯をつけた
十数年ぶりにお雛様を出したのだ
「ちゃんとお雛様飾らないと行き遅れるよ」
とは昔からよく聞かれる通り、
私は見事に行き遅れている
もっとも
飾らないのも昨今の住宅事情によるものだし、
同い年くらいで結婚していない人なんて珍しくもない
でも、街中で流れているひなまつりの歌を聞いた時
自分のお雛様の顔を見たくなったのだ
「中々飾れなくてごめんね」