「貴方からの愛情が、足りないの!!」
――そう激昂して、彼女は闇に消えた。
僕は安堵した。
湿った土が爪に詰まっていることも忘れて
解放感が稲妻のように走り抜ける。
生ぬるい夜風に揺れる木々。
月は僕に顔を向けず、
何も見ていないと言わんばかりに雲隠れしていた。
喪失感などあろうものか。
翌朝コーヒーを啜りながら会心の笑みを浮かべる。
[――続いてのニュースです。]
[山林にて、身元不明の女性と思われる――]
2022/09/10【喪失感】
心にはどうやら
体と別の《寿命》があるらしい。
《寿命》は人それぞれで
決して長持ちすることだけが幸せとは言えなくて
いつも温かな火が灯っているとは限らない。
いとも容易く消えてしまう火がある。
たくましく燃え続ける炎もある。
体の《寿命》とは違って
心の魂は何度でも生死を繰り返す。
誰かの心を殺し続けることは可能で
誰かの心に小さな火を分け与えることも可能で
くるりと裏を返せば
――火の用心。
2022/09/02【心の灯火】
――あれ、おかしいな。
ふとLINEを開くと、一番上に《俺》とのトークが。
誰か名前とアイコンを変えたのか?
でも、俺と全く同じプロフにするなんて気色が悪い。
さらに奇妙なことに、
名前の下にある最後のトークの表示もない。
吸い込まれるようにして《俺》の名前に指が伸びる――
[《俺》が写真を送信しました]
[《俺》が写真を送信しました]
[《俺》が写真を送信しました]
ピコピコと鳴り止まない無機質な通知音。
指が震える。
指先と電子画面、興味と恐怖の、あと数ミリの葛藤。
――ピコン。
[《俺》が写真を送信しました]
2022/09/01【開けないLINE】
足りない。
僕の血肉と化す魂が、足りない。
延々と満たされることのない欲望が
枯渇した理性すらも喰い千切った。
満腹の幸福感も忘れてしまった。
味覚も消え失せ
そこにあるのは濁り赤き肉塊。
生きとし生けるもの
その純なる輝きを血に染めた代償は
いつも僕の手のひらに。
2022/08/31【不完全な僕】