みんなのことが嫉ましいのは、自分に成功体験が不足しているからじゃないか。と、唐突に気づいた。
落ちぶれた姿を見せてもいいならもっと楽に生きられるのに、現実に見合わないプライドの高さが全て許さない。
【ないものねだり】
理想郷にいきたいですか?
はい
▶︎いいえ
目の前に突然現れたドア、その上の電光掲示板。
本当は「はい」のほうを選択したいけど、自分にとっての『理想郷』がまだわからないから選べない。
もし自覚も意識もないまま「理想郷に行きたいです」と言ったら、どこに連れて行かれるんだろう。
【理想郷】
毎年、衣替えのシーズンが鬼門である。
昨年までの服をどこにしまったか思い出せないのだ。
衣装ケースにしまったところまで思い出せたとて、「ここにある」と思って開けた押し入れの引き戸の向こうにあるのは別の家族の服が入ったケースであることも多々ある。
ものを考えたくないので服を一年で捨てる生活に憧れる。そこまで裕福でないどころか拗らせた貧乏性にそんなことは到底無理な話だ。
【衣替え】【ほぼ実体験】
『お互いの気持ちがすれ違うことが増えていき、不満がどんどん蓄積されていきました。このままではお互いが不幸になってしまう、そう考えて、話し合いを重ね、今回の決断に至りました』
ワイドショーで赤い背景の太文字テロップとともに騒がれる有名芸能人の離婚発表ニュース。彼らは確かスピード婚とか略奪婚とかインパクトのある言葉と共に婚約を発表したはずだったが、終焉のときも衝撃が残る言葉で自身らの状況を語ったようだ。
なんなんだろうな、結果として別れるなら何故結婚しようと思うのだろう。他人同士なのだから気持ちの擦り合わせがうまくいくことはあっても、完全に気持ちをひとつにすることなんてできやしないのに。
あほくさ、と呟きながら紙パックの鬼ころしを啜る午後3時、無職童貞の俺。
【すれ違い】
「あぁもう最悪だよ!」
怒気を孕んだ低い声が扉越しに聞こえた。
なにかあったのだろうか。俺にできることがあるなら力になりたいんだけど、下手に声をかけて虎の子を起こすのも躊躇われる。
少しだけ、こっちの部屋で様子を窺うことにした。
最悪も最悪、本当に最悪。
スマホのデータ引き継ぎを完璧にしたと思っていたのに、このアプリだけ引き継げていなかった。
単純な理由、アカウント未作成のまま使っていたことを忘れていた。
とはいえ読み返すのも恥ずかしくなるようなものしか書けていなかったし、心機一転全て無かったことにしてこの習慣を始めてもいいだろうか。
何はともあれ頭が痛い。コーヒーでも淹れて気分転換しようか。あいつまだ起きてるかな。
【※実話ベース】