叶わないからこそ望むものなのに、そのことをわたしたちはあまりにも忘れがちだ。
愛も命も、楽しい時間も、等しく有限であるというのに。
だから今この瞬間を大事に、と柄にもない言葉が喉に引っかかったのと同時に、だから確かめ合うんだよ、とその人は笑った。
この時間が続けばいいとお互いに思えれば、その瞬間はまさにそうなのだと。
都合が良い。でも、屈託なく綺麗なものを信じるその姿は眩しい。嫌いではない。
それなら、今のわたしの気持ちと同じことを、あなたが考えているのならば。この瞬間だって。
(そんなこと、口に出せやしないけれど)
争いのない世界。飢えのない世界。怒りや悲しみ、憎しみのない世界。まさに理想。
それを叶えるにはまず個体差があってはならない。外見の醜悪があるから、身に付けるものの質の違いがあるから、性格の違いがあるから、人は人を羨んで、憎んで、争う。
それなら全部管理してしまえばいい。
産まれたら決められた顔に整形して、人より背が伸びたら削り落として、衣食住は決められたものだけを何もかも与えればいい。
君達は選択などしなくていい。つまり身に降りかかる悪い事は全部何かのせいにできるんだよ。
それでもこの計画にはまだまだ粗がある。もっと隙無く練り上げなくては。
それでも劣等感を抱く奴は□□すればいい。こんなにこちらが努力してもなお他人と比べて生きる奴なんて、そもそも生きることに向いていない。早々に去ってもらうのが優しさだ。
ああ、なんて素晴らしい。なんてよくある話。素敵じゃないか。
初めて飲んだストレートティーは、想像よりずっと華やかでさわやかで、どこかきらきらした香りがした。
さほど好きではなかったはずのそれをなぜ手に取ったのかは覚えていない。間違えたんだったか、気まぐれだったか。
今もすごく好きなわけではない。それでもたまに飲む。そのときはほとんど無糖のものを。
知らなかったことを知ったあのときの驚きと、かつてストローを刺して飲んでいた紙パックの甘いレモンティーを思い出す。今もたまに飲みたくなるが、あれはもう甘くて、わたしには飲みきれなくて。易々と手に取れなくなってしまった。きっとだめにしてしまうから。
随分と大人になったな、なってしまったなと思う。茶葉の違いもわからない舌のままのくせに。
格好がつかないものも多いけど、柔らかくて扱いやすい。かといってぞんざいに扱うと簡単に傷が付く。
ぶつけてもあまり痛くないものだけど、あまり勢いを付けると少し痛いし、面食らう。
そんなものを、なるべく近い距離から優しく、気負わず受け取れるよう、細心の注意を払って、放つ。
そして届けば、相手も自分も嬉しくなるし、同じように返してくれたらより嬉しい。
子供に下手で投げるボールのようだ、と思った。
夜遅く、だけど日付が変わる前。スマホが鳴った。
数分通話したものの、長くなりそうなのでこちらから切った。今から行く、と。
コンビニでウイスキーと炭酸水とジュースとお茶と菓子各種を買った。嫌なことには強い酒と相場が決まっている。
新作のプリンは思ったよりも綺麗な黄色で、美味しそうだったので自分用にもうひとつ。
それらが詰め込まれ、張りの出たレジ袋はそれなりに重かったが、パーティさながらの荷物に不謹慎ながらも心は少し躍っていた。
正直に話したら怒られるだろうか。でも。
君を泣かせる準備も笑わせる準備も完璧だ。許して欲しい。