さよならを言う前に、なんて、そんな時間は当たり前にあると思っていた。
貴方との「さよなら」は突然やって来た。
電話の音。
知らない人の声。
思っていたのと違った、貴方との「さよなら」。
伝えたかったこと、いっぱいあったのに。
ドラマやマンガみたいにはいかないんだね。
麦わら帽子と
ひまわり畑と
入道雲と
君と。
遠い昔の夏の記憶。
「終点、終点です」
単調な運転手の声が聞こえる。
「皆様、次の駅でお降りください」
そのアナウンスを聞きながら、私は流れていく窓の外を眺めていた。
どれだけ進んでも、田んぼ、田んぼ、田んぼ。
車両には私と、あともうひとりしか乗っていなかった。
いつも終点まで一緒の、幼なじみのルイ。
いつの間にか距離ができて気まずくなってしまった。
また昔みたいに、なんて思ったり。
電車が駅に着く。
私たちはそれぞれホームに降りた。
「ヨウ」
夏の暑さにうんざりしていると、名前を呼ばれた。
「ルイ?」
「あのさ、ずっと言いたかったことがあるんだけど」
ルイは髪の毛を弄りながら言った。
「ヨウのこと好き」
蝉の鳴き声がやけに大きく聞こえた。
夏の暑さのせいか、頬が火照っている。
「また、返事、よろしく」
ルイはそう言い、足早に改札を出ていってしまった。
「ほんと、昔から慌ただしい」
思わず頬が緩んだ。
上手くいかなくたっていい。
ただその言葉をかけてほしかっただけなのに。
潮風が頬を撫でた。
「失敗って何なんだろう。」
私の問いかけは、波が崖にぶつかりくだける音にかき消された。
そんな問いも、今となってはどうだっていい。
だって今から私は人魚姫の様に海の泡になるんだから。
私が地面から足を離そうとしたその時。
「待って!」
そう叫ぶ声が聞こえた。
「待って、まだ、いかないで」
驚いて振り返ると、イツキが必死な顔でこちらに走ってきていた。
「上手くいかなくたっていいじゃん!」
だからいかないで、そう言ってイツキは私の腕を掴んだ。
地面にポタリと雫が落ちた。
はずだった。
途端に消えるイツキの手の感覚。
あれ、私、なにを見てたの?
そこにいたはずのイツキはいなくて。
全部、私の幻覚、
口から笑みが零れた。
私はそのまま暗い海の泡になった。