「…兄さん?」
酷く魘されていたような気がする。
暗い微睡みからむくりと顔を出したその先で、気づいたひとりぼっち。
「にいさん…」
震えるような吐息がひとりぼっちの暗闇にはよく響く。
ぼんやりと熱くて重い頭を起こすと、枕元には体温計とスポーツドリンクが置いてあった。
「にいさん…どこ?」
のそのそと布団を這い出て、ぺたりと素足を地面に着ける。妙な冷たさが気持ちよかった。
起きたら兄さんがいないというショックに、熱があるということも相まって、視界が滲む。
ぺたぺたと覚束ない足取りで部屋を出て、身体は兄さんだけを求めていた。
「にいさ…にいさん…」
どこ、どこにいるの…?
どうしようもない不安感と捨てられたのかもしれないと変な方向に曲がってしまう絶望。
一階に降りて、リビングに繋がるドアを開けたところで、ドアの向こうにいた兄さんと目が合う。何か考える前に身体が兄さんに抱きついていた。
「っ、にいさっ…」
「わ、優。まだ起きてきちゃだめだよ。ほらお部屋戻ろ?」
「や、だ…っ。なんで、なんで…、兄さん部屋にいるって、言った…っ」
「ごめんごめんね。何か食べれそうなもの作ってたんだよ、ほら。優、卵がゆ好きでしょ?」
「…たまごがゆ」
「うん。今お部屋行こうとしてたんだ」
ちらっと兄さんの手元に視線を下げると、木のお盆の上の卵がゆとすりおろしたりんごが目に入る。
「…でも、ずっと部屋いるって言った。どこも行かないって言った」
嬉しいはずなのに、なんだか癪でふいと横を向く。
「あはは、ごめんね。熱出した優、新鮮でいいなぁ。ほら、お部屋戻ろ?」
そっと手を引かれて、素直に小さく頷いた。
「熱がある優、かわいかったなぁ」
「…え、…僕、またなにかやらかした…?」
「ふふ、んーん? 優は熱出すと記憶なくなっちゃうもんね」
どこ? #197
(ずっと頭の隅にいる三兄弟の二次創作 創優)
「ねぇ…大好きだよ?」
緩く弧を描いた妖艶な唇。
背景には、窓から覗く十六夜の朧月がよく似合っている。
「…きみは? ボクのことすき?」
かなしいひとがまた一人、溺れていく。
その視線に射抜かれたら最初で最後だ。
大好き #196
「…これ、は…」
彼の家のゴミ箱で見つけた、薬局で処方されるような紙袋と薬が入っていたであろう包装シート。
震える手で紙袋を手にとってそっと裏返す。
そこに書いてある病名が目に入った瞬間、ひゅっと息が詰まる。
このときだ。
どうすることもできない心のざわめきが確かなものになったのは。
心のざわめき #195
「…先輩?」
なんとか先輩とのデー…、ううん、お出かけに結びつけた日のこと。
話しながら歩いていたとき、ぴたりと足を止めた先輩に、俺も足を止める。
ただ一点を見つめて微動だにしなくなった先輩を不思議に思っていたら、先輩の頬をつぅと静かに伝ったのは透明な涙。
「…っ、」
言葉がなくなる。
音が消える。
先輩の世界に静かに線引きされた気がした。
何か言おうとした口は、はくと何も言えずにただ意味を失う。
それと同時に痛んだ心臓は奥へ押しやった。
…ああ、先輩は今も何気ない景色に彼を探しているんだ。
透明 君を探して #194
(書いてなかったこの期間結構大きいかも。書けない)
ずっと書いてきた小説のデータ全部消えててめっちゃ落ち込んでた…
もう立ち直れない…