ふと思い出した昔話。
ある国に、世界で最も美しい音を響かせるベルが教会にあったそう。
でもその鐘はクリスマス限定で、世界で最も美しい贈り物が教会に置かれたときのみになる……らしい。
らしいというのは、誰もそのベルの音を聞いたことがなかったから。
その年もベルの音を聴きたいとて多くの大富豪まで集まっていた。
ある大富豪はこの世でもっとも高いとされるものを。
ある大富豪は昔の王様の王冠を。
されどそのベルの音が響き渡ることはなかった。
王様の王冠でさえ音が鳴らないのだからと人々は落胆し、ベルの音の噂はウソなのだろうと教会に背を向けた、そのときだった。
なんともいえない美しいベルの音が鳴り響いたのは。
見ると、薄汚れた一人の男がこれまた薄汚れた銀貨をおいたところだった。
置いた本人は困惑しながらも思った。
“兄さんの想い、届いたよ”
その男は兄とここに来る途中で倒れていた女性を見かけたのだ。放っておけなかった彼らは迷わず声をかけた。
しかし弟である男は兄がどれほど今日を楽しみにしていたか知っていた。
まごつく彼に兄はお供えするはずだった銀貨を渡して言った。
“俺はこの女性を病院に連れていくから、お前は俺のぶんまで神に祈りを捧げてくれ”
そして兄が病院で息をついているとどこからともなく世界で最も美しいベルの音が、弟の心の音が響いてきたんだって。
─ベルの音─ #146
(知ってる話をどけだけ効果的に書けるか練習...
長くなってしまったしあまり効果的にはかけていないかも...
この話結構好きです)
誰か、誰でもいい。この寂しさを埋めてください。
それが叶わないなら、誰か、誰でもいいの。
死んでいいって、生きるのをやめていいって、そう言ってよ。
もう、許して、許してください
─寂しさ─ #145
「あの、せんぱい。クリスマスとかって...空いてたりしますか?」
突然のことだった。
しんしんと外で降り始めた雪に比例して降り積もっていた倦怠感はどこかへ飛んでいってしまった。
「...え」
コンビニでのバイト中、暇な時間帯を狙ってきたのであろうバイト仲間の柊くん。ちなみに高校の後輩でもある。
「空いてはいる...けど」
「“けど”?」
不安そうな表情で見上げられて、うっと心が詰まる。だめだ、なんで美形の表情とか仕草というのはこんなにも直接的に心臓を叩いてくるのだろう。
「えっとね店長がバイト誰も入ってくれないって半泣きだったから、入ろうかなぁって」
ちからない笑いを浮かべると、彼は水を得た魚のようにぴょこんっとちいさく飛び上がった。
「ってことは、クリスマスはバイトして過ごすってことですか?バイト以外は予定ないってことですよねっ?」
「まぁ、そうかな」
きらきらとした笑顔が痛い。
柊くんは過ごす相手いるんだろうな。なんてぼんやりと頭の隅で考える。
そしてそこの美形、人の哀愁にそんなきらきらした笑顔を添えるんじゃない。
「あのっ、俺もその日入りたいと思ってて。バイトと終わったらでいいんで、どこか行きませんか?」
「え?柊くん、クリスマスもバイト入るの?」
カノジョさんとかと過ごすんじゃないの、と付け加えたくなったがすんでのところで呑み込む。別れたてで寂しさをバイトで埋めようとしているのかもしれない。
「あ、えっと、バイト俺と一緒じゃいやですか...?」
さっきの自分の発言をそう捉えてしまったらしい。ひどく気まずそうな傷ついた様子の美形がそこにはいた。
確かにあそこだけ聞くと嫌みな感じしかしない。
慌てて顔の前で両手を振る。
「そういうことじゃなくって。柊くんがクリスマスまでバイトなんて意外だなって思っただけ。そうだね、終わったらどこか行こっか」
「…! はいっ」
今度はしっぽが見える。
俺の言動でこんなにも表情がくるくる変わる柊くんが、昔飼っていた犬にそっくりでこっそり笑顔が漏れたのは秘密だ。
─冬は一緒に─ #144
いつの日にか聞いた言葉が頭の奥でこだまする。
人はなくしてから気づくんだって。
あんなとりとめのない話でも、もう二度とできないんだな。
─とりとめもない話─ #143
孤独に眠るきみの手を離さないよう傍にいたのに、
いつの間に俺まで寝てしまっていたんだろう。
─風邪─ #142
(そろそろ長編書いていこうかな……)