誰か、誰でもいい。この寂しさを埋めてください。
それが叶わないなら、誰か、誰でもいいの。
死んでいいって、生きるのをやめていいって、そう言ってよ。
もう、許して、許してください
─寂しさ─ #145
「あの、せんぱい。クリスマスとかって...空いてたりしますか?」
突然のことだった。
しんしんと外で降り始めた雪に比例して降り積もっていた倦怠感はどこかへ飛んでいってしまった。
「...え」
コンビニでのバイト中、暇な時間帯を狙ってきたのであろうバイト仲間の柊くん。ちなみに高校の後輩でもある。
「空いてはいる...けど」
「“けど”?」
不安そうな表情で見上げられて、うっと心が詰まる。だめだ、なんで美形の表情とか仕草というのはこんなにも直接的に心臓を叩いてくるのだろう。
「えっとね店長がバイト誰も入ってくれないって半泣きだったから、入ろうかなぁって」
ちからない笑いを浮かべると、彼は水を得た魚のようにぴょこんっとちいさく飛び上がった。
「ってことは、クリスマスはバイトして過ごすってことですか?バイト以外は予定ないってことですよねっ?」
「まぁ、そうかな」
きらきらとした笑顔が痛い。
柊くんは過ごす相手いるんだろうな。なんてぼんやりと頭の隅で考える。
そしてそこの美形、人の哀愁にそんなきらきらした笑顔を添えるんじゃない。
「あのっ、俺もその日入りたいと思ってて。バイトと終わったらでいいんで、どこか行きませんか?」
「え?柊くん、クリスマスもバイト入るの?」
カノジョさんとかと過ごすんじゃないの、と付け加えたくなったがすんでのところで呑み込む。別れたてで寂しさをバイトで埋めようとしているのかもしれない。
「あ、えっと、バイト俺と一緒じゃいやですか...?」
さっきの自分の発言をそう捉えてしまったらしい。ひどく気まずそうな傷ついた様子の美形がそこにはいた。
確かにあそこだけ聞くと嫌みな感じしかしない。
慌てて顔の前で両手を振る。
「そういうことじゃなくって。柊くんがクリスマスまでバイトなんて意外だなって思っただけ。そうだね、終わったらどこか行こっか」
「…! はいっ」
今度はしっぽが見える。
俺の言動でこんなにも表情がくるくる変わる柊くんが、昔飼っていた犬にそっくりでこっそり笑顔が漏れたのは秘密だ。
─冬は一緒に─ #144
いつの日にか聞いた言葉が頭の奥でこだまする。
人はなくしてから気づくんだって。
あんなとりとめのない話でも、もう二度とできないんだな。
─とりとめもない話─ #143
孤独に眠るきみの手を離さないよう傍にいたのに、
いつの間に俺まで寝てしまっていたんだろう。
─風邪─ #142
(そろそろ長編書いていこうかな……)
今の僕には、ただ雪を待つことしかできない。
溶けきってしまった氷色の心臓がまたもとに戻るまで。
貴方の体温が未だに忘れられていない。
ねえ、僕を弱くしたのは貴方なんですよ。
人を愛した分だけ苦しみが後味に残るから、氷色に染め上げていた心臓だったのに。
知らず知らずのうちに貴方に冷たい氷を溶かされてしまっていた。
信じたのにね。信じられたのに。
結局こうなるなら、僕を変えないでほしかった。
こんなことなら最初からひとの体温なんて知りたくなかった。
─雪を待つ─ #141