「久しぶり、だな」
急な温度変化で、風邪のような熱っぽさが残る、ある秋の日。
「……なんで」
夜遅く、バイトが終わって、はやくアパートに戻ろうとしていたときだった。
秋特有の突き放すような曖昧な冷たさが、刺さる。
なんで、どうして、終わって一年も経つのに、やっと忘られてきていたのに。
「いつもバイトこんな遅いのか?」
俺のバイトが終わるまでずっとこの寒さのなか待っていたというの?
そもそもなんでバイト先を知っているの。
ぐっと唇を噛んで、重くなった脚を無理やり動かす。
お前が突き放したの、忘れてるとでも思っているのか。
「おい」
覆水盆に返らずなんだよ。
お前が終わらせたんだ。今更なんだっていうんだ。
そうやってこころのなかで並べるのは、自分に言い聞かせているのも同然だった。
そうでもしないと帰れそうになかった。
「なあっ」
「今更だろ。何? お前と話したくないし話すことないんだけど」
「……やり直したい」
「…は?」
どくん、とまず心臓が脈を打った。
ふざけるな、と次に思った。
「“親友”を壊したのも、“恋人”を壊したのも、両方失うことになったのも、俺が馬鹿で未熟すぎたからで、ずっとぜんぶ後悔してた…っ」
俺だって何度も何度も考えたよ。親友のままだったらって。こんな苦しい想いもしなかったんだろうなって。
「お前のそばで生きていたい。それだけでいいってやっと思えた」
だから。と彼は続けた。
親友が壊れて想いが通じた秋。
ふたりで暖めあった冬。
ふたりで散っていく桜を見に行った春。
普通の恋愛とは違うことを再確認させられた夏。
親友も恋人も壊れた秋。
三度目の秋は────、
─秋🍁─ #76
人はいつも切り取られた窓から見える景色だけで
世界を見ている
─窓から見える景色─ #75
人が他人に求めているのは、いつだって形の無いもの。
─形の無いもの─ #74
あの日、ジャングルジムの上で眺めた星空を、もう一度君と。
─ジャングルジム─ #73
「死にたい」
「消えたい」
「いなくなりたい」
「生きていたくない」
今日も声が聞こえる。
そっと視線を逸らした先で、あの日の死神がにたぁと笑ったやうな仮面をつけて浮かんでいた。
きっとその仮面の下は笑ってなんかなくて、人間の負のこころの声を受け止めるうちに身も心もぼろぼろになっているのだろう。
僕も死神と似たような力を手に入れてから毎日のように聞こえてくる人間の負の感情に押し潰されそうだ。
ああ、僕が人間だったころにこころの隅にこびりついていた負の感情は知らぬ間に誰かを傷つけてぼろぼろにしていたのかもしれない。
─声が聞こえる─ #72