恐怖が私の焦燥感を掻き立てる
手放しでお茶を飲むこともできずに
なんとか平静を保つために埃の一つも見当たらない床を掃いて艶やかなテーブルを磨く
今日こそ鳴るだろうか
遠方の地は影だけが張り付いて残るような光と闇の交叉があったらしい
彼の人を見送ったあの日から永遠とも思えるながいながい時がたつ
絶対に帰ってくる。
私は今日も待ち続ける
彼の人の帰宅を知らせるであろう戸口の鐘の音を。
家を出ると木犀花の芳香がそよぐ
見上げた深い縹の空にはうっすらと碇星
いつのまにかまちはすっかり色を変えているようだ
少し肌寒い夜の空気から身を守るためお気に入りの臙脂の羽織
足元は背筋が伸びるような艶やかな濡羽色のヒールは7センチである
さて気合を入れて
仕上げに長年磨きてきた笑顔を纏う。
人前用の完璧な「私」のコスプレ
歩く姿は百合の花が背景に浮かびそうな私の裏側
誰ひとりとして気づきはしない
努力と苦悩の末得たのは「普通」のふりをする技術だった。
うつ病と歩み始めていつのまにか7年もの月日が経つ
【コスプレ】
半径69万6000㎞
水を1とした時の密度1,41
温度は6,000~10,000℃
現年齢を言うならば46億歳
寿命100億年
地球生命に恵みをもたらす中心太陽。
その命よりも永く。強く
『永遠』
星間分子雲が凝縮を繰り返しガスの塊となって、
星間物質を取り込みながら密度を増し、
高温の天体となり光を放っている。
そしてやがては水素を使い尽くし膨張し赤色巨星となった後
その中心部に白色矮星を残し外装部だけがまた膨張し始める
最終的に冷え切った恒星は、黒色矮星となって一生を終える。
そう。当たり前のこと
この世に存在するたった1つの『絶対』。
誕生した命はいつか必ず尽きる。
体と共に命が尽きてもこの想いは決して消えない。
体は塵となって、
魂は光となって
在り続けよう。
この世に永遠なんてないけれど、
この想いは限りなくそれに近い間
在り続ける。
これからもよろしく。
命が尽きるまで。
永遠が終わるまで。
窓の外の雨粒は全ての音を吸収する様に降り注ぐ
時間すらも雨にさらわれてゆく6月の末
あと数日もすればまたひとつ歳を重ねるというのに社会の歯車とは噛み合わないまま
抗えないほどの重力を全身で感じて動けずにいる僕を置いてけぼりにして世界はなにひとつ変わることなくまわっているらしい
眠ることも起きることも出来ずにどれくらい立つだろう